『高く高く跳びはねて、』



その日は朝からずっとイライラとしていた。


朝から滝夜叉丸の天女様自慢を聴かされ挙げ句の果てに、珍らしく仕事をしていた天女のグダグダと長い説教。
そして、めんどくさい事に先輩達に絡まれてしまった。
グダグダと繰り返れるくだらない説教に、溜め息を一つ零す。すると、素晴らしい地獄耳をお持ちの立花先輩にバレてしまった。



「綾部、なんだその態度は?」


「……いえ」


「…そういえば、お前は最近あの男の側にいるのをよく見かけるな?」


「………」



答えても無駄だと判断した私は、黙秘を続ける。
だからなんだというのだ。私は、ただでさえ疑われている立場にいるというのに怪我を負わせてしまい、仕事に支障をきたせてしまったあの人にお詫びとして怪我の分の補助をしているだけだ。それ以外で近づいたことはないし、先輩達に何かを言われる筋合いはない。
急に、顔を上げた七松先輩はニヤニヤと嫌な笑みを貼付けてとんでもない事を言った。



「なんだ綾部、お前そっちのケだったのか!」


「えっ、そうなの綾部くん?」


「ほぅ…初耳だな……」



開いた口が塞がらないとはこの事だろうか。……全く、これだから思考が安直に働く人は嫌いなんだ。大体、七松先輩も立花先輩ももっと賢い人達だったはずだ。…ああ、やっぱり変わってしまわれた。どうして?何が原因で?





そうか、この女のせいで……





「っ、綾部!!」


「きゃっ!!!」



無意識に振り上げた手の中には踏鋤の踏み子ちゃんがいて、そのまま下ろす前に、踏み子ちゃんがコイツの汚い血を浴びるのは嫌だなぁと思ったのだけれど、それもまあいいかと自己完結させてしまえばそれまでだった。





「綾部くんっ!!!」




















一瞬の出来事だった。
目の前にいた天女はいつの間にか現れた卯月さんの手によって離れた場所に移動させられていて、握っていたはずの踏み子ちゃんは卯月さんがもっていて、



「こんなの振り回したら危ないよ」


「卯月さん……」


「一年生の子たちが心配してたよ。行っておいでよ」


「おい、ちょっとまて。私達は綾部に用があって呼んだんだ。勝手な事をされては困る」


「じゃあ、僕が話してきますよ。なんですか?」


「お前などに話しても意味はない。後輩が粗相をしたらそれを罰するのが先輩の役目だろう……?」




周りに聞こえないような音量で平然とその言葉を発した立花くんは、ニタリと唇に弧を描いた。ああ、この表情を僕は知っている。そして、こういう表情をした人の考えも。僕は綾部くんも一年生の子達のことも大好きだ、だから………






「嘘つき」






次の瞬間、僕は高く高く跳びはねて、





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