『彼なりのお詫びだったらしい』

「よし、綺麗になった!」



シミ一つない洗ったばかりの着物を広げて、我ながらも感心した。
これなら次屋くんも満足するだろう。
思わず緩んだ頬にも気にせず、洗濯したばかりの着物の水を切る。
















「あー……どうすっかなーこれ、明日使うのになー」

「本当どーすんだよ、これから授業だってのに!!」



朝の朝食ラッシュも終わり、ちょうど当番のくの一教室の子達と皿洗いをしていると、何やら声が聞こえ、手を動かしつつ声をかけた。



「どうしたの?」

「……右京さん…実は明日女装の実習があるんですけど、三之助のやつが実習で使う着物を泥で汚しちまって……」

「んで、洗おうにも俺らこれから授業だし、その後は学園長のお使いがあって、夜洗ったんじゃ乾かないしどうすっかなーって…」

「ふーん」



どうやら三之助くんは保健委員並の不運にあってしまったようだ(こんな事言ったら保健委員の子達に怒られそうだ)。
それでさっきからうんうん言ってたのか……。



「僕が洗っておこうか?」

「え、良いんですか?」



どうせ今日の仕事は洗濯と食堂の手伝いだけだから、と言えば三之助君は安心した様にじゃあ、と言いかけた。



「ちょっとまって下さい右京さん!!そんな事言ってるから仕事押し付けられるんですよ!!」

「この間なんか本当は天女がやるはずだった仕事をやらされて穴に落ちて足まで怪我させてたじゃないですか!!


その後、異義を唱えるくの一の子達をなんとか説得し、三之助くんから衣を受け取り、冒頭に至る。……今度くの一教室で一緒にお茶するという事で手をうって貰った。

それにしても、この学園の子達はいい子ばかりである。さっきのくの一教室の子達はもちろん、富松くんは足を怪我した僕を気遣かって、椅子とその高さに見合った台まで出してきてくれた。
そこまでされれば、何がなんでも落としてやろう!と思い、気合いでシミを一つ残らず落とした。





「おやまあ」





独特な台詞に顔をあげれば、先日のふわふわくんが立っていた。
その手にはあのスコップ的な物をもっている。



「今日も洗濯ですか?」

「別にいつもしている訳じゃないよ?ただまぁ、頼まれたってのもあるけど、足怪我してるから立ち仕事が出来なくて……と、いうかさせて貰えなくてね」

「保健委員会が、ですか?」

「あー…うん、あはは、」





何か用があるのかと思えば、僕が手にもっていた着物を取ってそのまま物干し竿にかけた。



「ふわふわくん?」

「僕の名は綾部喜八郎です」

「あ、ゴメン綾部くん」



綾部喜八郎と名乗った彼は、洗濯し終えた物を次々に干していく。訳が解らないので、もう一度その名を呼んだ。





「……まぁ、いつもなら気にしないんですけど、」

「けど?」

「どうやら仕事の方に支障をもたらしてしまったようなので、」





余りにも表情を変えずに言うもんだから、理解するまでに時間がかかってしまった。





どうやら彼なりのお詫びだったらしい








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