『なんか、ゴメンね?』
ズキズキと痛む右足に溜め息をついて、空を見上げた。
完全に油断していた。結構深い穴に落ちていたようだからなんの疑いもなく助けてあげようとした。
いや、まさか踏み台にされるだなんて誰も想像しないって。
急に腕を引かれるもんだから受け身も取れずに落ちれば、足を捻ってこの穴から飛び出る事が出来い。多分折ってはないだろうけど……腫れてるなぁ。
「おやまぁ」
突然降ってきた声に顔をあげると大きな目にフワフワな髪の毛の美人さんがこちらを覗きこんでいた。制服の色的に四年生かな?
「はじめまして卯月さん」
「ああ、うん、はじめまして」
「授業中なんで小松田さんかと思いました」
「なんか、ゴメンね?」
「いえ、」
なんか、不思議な光景だ。穴の中と地上とでこんなにのんびりと会話してるだなんて普通はないんだろうなぁ。 何と言うか、不思議な雰囲気の子だ。
「出来ればこの穴から出してくれると助かるんだけど……もし嫌だったら何か道具とか貸してくれないかな?」
「………」
「あ、あれ?」
フワフワくんの反応が無くなってしまった。せめて意思表示だけでもしてくれると嬉しいんだけど、
「私は、」
「(おっ……?)」
「私は、椿先輩側の人間ですよ」
「………?」
「つまり、ここで私が貴女を助けるとお思いですか?」
「じゃあいいよ。その代わりと言っちゃあなんだけど、そこの洗濯物を山田先生のとこに持ってってくれないかな?急ぎで必要何だって」
「…………」
また反応が無くなってしまった。どうしたらいいんだ。とりあえずそこの洗濯物を持って行って貰わないと山田先生が困るしなあ。
「貴女は私を惑わす術を使わないんですか?」
「そんな術が使えればとっくに使って山田先生のとこに洗濯物を届けて貰ってるよ」
「貴女は馬鹿ですか」
「ええ、酷くない?」
「さっきのは冗談です。縄梯子下ろすんで少し空けて下さい」
穴の端の方に寄れば言われた通りに梯子が下りてきた。それより、さっきのはって、敵です発言と馬鹿だろ発言のどっちだろうか。 悩んでいるとなぜだかさっきのフワフワくんが降りてきた。
「?」
「何不思議そうな顔してるんですか。ほら、背中に乗って下さい」 「え、自分で登れるよ?」
そう言って梯子に手をかけると右足を軽く蹴られ、そのままバランスを崩して倒れてしまった。 なんなのさ!
「立ってるのもやっとの人が何を言ってるんですか。私が保健委員に怒られます」
「……すみません」
一度倒れてしまえば立つのも困難で、されるがままにフワフワくんの背中に乗った。 見た目よりもしっかりと筋肉のついていたフワフワくんからは土の匂いがした。
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