『さぁ、帰ろうか。雨が降る前に』
やっとの事で追い付いた場所は町外れにある橋で、きり丸くんは川のある一点を見詰めていた。 流石に、荷車を引きながらの全力疾走はきつかった。肩で息をしながら橋の上のきり丸くんと乱太郎くんのやり取りを見る。
「きり丸……、」
「俺……」
きり丸くんはぐっと口元を引き締めた。そして、振り返り…、
「絶対ェーここから小銭の落ちる音がしたと思ったのによー、みろよ川ん中だぜ!?」
「「だあああ、もう!!」」
まるで一昔前の漫画のようにずっこけた乱太郎くん達は呆れた様に笑っている。勿論きり丸くんも。 あの笑顔はよく知ってる。
「って、右京さん!?」
「風邪ひきますよ!!」
川は案外深く、服は濡れずに済むかと思えば予想に反してびっしょびしょ。濡れた髪がうっとおしくて、前髪をかき上げた。
「はい、これでしょ。小銭」
「そ、そうッスけど……わざわざなんで、流されるかもしれないのに…」
「君はかわいそうなんかじゃないよ」
「…っ!!」
飛び出るんじゃないかってほど目を見開いたきり丸くんの頭に手を置いた。濡れているけれど気にしない方向で。
「まぁ、確かに過去に起きてしまった事は悲しい事かもしれないけれど、君自身はそれを乗り越えてきたんだろう?だったら他人の言う勝手な言葉は気にしなくていいんだよ」
「…………」
「それに、君はガキのくせに我慢しすぎだ。確かに我慢することは大事だけれど、時には甘える事も大事だよ……」
「もし、仮に君が悲しみの淵に堕ちても、君のまわりには拾ってくれる人がいるんだから……この小銭みたいにね」
「……ははっ、俺は小銭と同じってことッスか」
「いや!あの、その、言葉の綾というか、えと……」
「……ありがとうございます」
今度はちゃんと子供らしく笑うきり丸くんにつられて僕も笑った。
「さぁ、帰ろうか。雨が降る前に」
今にも雨が降りそうなこの雲は、学園まで持ってくれるだろうか。
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