『僕を呼んでくれて』



動きが封じられているような、そんな寝苦しさから目を覚ました。最初、目に入ってきたのは最近では慣れてしまった、少し古びた木目の天井。
そういえば、と、寝苦しさの感じる自分の身体へ視線を向けると、規則正しく上下を繰り返す紺色の小さな塊が、ちょうど僕の脇腹すれすれのところにいた。大きさから言って二年生かな?きっと寝苦しかったのは、この僕のお腹に乗っている手だろう。
窓から差し込む月明かりが、夜中だと言うことを物語っていた。身体を起こして、この二年生の子…川西くんを起こしてしまわないように掛け布団をかけてあげた。





「(…だいぶ寝てだなぁ……)」

「もう、起きて大丈夫なのか?」

「え、」



当然、人の声が聞こえてきてきょろきょろと見回すと、天井の板を外して顔を覗かせている竹谷くんがいた。竹谷くんは、そのまま音も立てずに降りると、私を横抱きにした。



「う、え!?」

「そのまま喋んなよ!」

「う、うん、」


そのまま保健室から出ると、一瞬にして屋根に上がった。 一人口をパクパクさせていると、優しく屋根に下ろされた。



「ほらよ、何も食べてないんだろ?」

「ありがとう、でもなんで屋根?」

「ほら、保健室じゃ川西を起こしちゃうしな……それに、月が綺麗だったから」


言われて始めて気づいた。
今日は綺麗な満月で、これぐらい明るいなら本でも読めそうだ。貰ったおにぎりを食べつつ竹谷くんを盗みみる。

それにしてもなんで夢の中で竹谷くんが出てきたんだろう。





「……お前、記憶がないってほん「本当だよ」



言わんとしていることを言葉を被せて伏せると、何とも言えない表情に変わった。なんでかそんな表情をして欲しくなくて、何でもないような顔をして、まるで言い訳をするように言葉を紡ぐ。



「いや、でもね、思い出せないっていっても思い出の中にいる人達だけだし、支障が出る様なことは……」

「悲しくはないのか……?」

「…どうだろう、よくわかんないや」



そう、別に記憶がないからといって特別悲しいということはない。しかし何か物足りない感じがあるのは確かだ。こう、ポッカリと穴が空いているような……。



「ああ、そういえば夢をみたんだ」

「……夢?」

「そっ、夢。その夢の中ではね、元の時代の事もそうなんだけどここの事も全く覚えてなくってね、とにかく左京の所に帰ろと思ってたんだ。でもね、何故だか涙が溢れて出てきてね、今でもよくわからないんだけど寂しかったのかなぁって……」

「………」

「そんな時にね、聞こえたんだ
竹谷くんの声が」

「………おれ、?」



ぽかんと口を開けて驚いた顔をした竹谷くんを一瞥して、立ち上がった。










「ありがとう、僕を呼んでくれて」








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