恋愛に発展するためには、きっと近すぎては駄目なんだと思う。あまりにも近すぎる距離に嬉しいはずなのに、私は胸が締め付けられるだけだ。きゅっと掴まれたそれから解放される術は、今のところない。息がし辛いこの世界に色めく彼は私には程遠くて、彼の後ろ姿を見ることさえできないのだ。どうせなら、仲良くなければよかったのに。そう私は、いつも彼に浮かべる笑顔の裏で、汚い下心を覗かせている。


「なーにしけた顔してんだよ」
「ああ……うん」
「元気出せって、な?」


なにも考えていない彼は、そう言ってぽんぽんと私の頭を叩いた。それが愛情のものであればどれほどよかったか。境界線を越える。それは私が最も恐れていたことであって、そして今の現状である。私より大きいその手だって、私の顔に触れることはない。その手が違う誰かに触れると考えると、どうしようもない感情にとらわれるのだ。確かに、異性の中では一番仲がいいだろう。でもそれは少しの優越感を得られるだけであり、私の望むような関係にはなれないのだ。そんなもの、欲しくなかった。優越感はすぐに劣等感に塗りつぶされる。その劣等感は私を満たして、いずれ私を殺す。


「なにに悩んでるのか知んないけどさあ、もっと頼ってくれてもいいんだぜ?」


手が離れて、彼は少しだけ寂しそうに笑った。じゃあ私が高尾のこと好きって言ったら、付き合ってくれるの?ぐっと息を呑み込んで、言葉にしてしまうことを避けた。好きということさえ伝えられないもどかしさに、視界が濡れるのがわかる。きっと彼は私がこうなっている理由は知らないだろうし、わからないだろう。私は近すぎた。彼に近すぎた。どう足掻いても、どう諦めても、結局私は彼が好き。その言葉はきっといつまでも、胸に残り続けるだろう。だから私は、いずれその無限に殺されると、そう思うのだ。
title:くのいち
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おめでとう高尾!
いっちー主催企画提出