「俺たちは、油断していた」


 雨が降る中、ユニフォーム姿で立っている大坪を迎えに来たはずだった。けれど、頭からタオルを被って、拳を握りしめている彼を元気付ける言葉は出てこなかった。いや、出てこなかったわけではない。確かに元気付けようとする言葉はあったのだけど、どうしても言う気になれなかった。いつものように、軽い冗談を言って笑う程軽いことではないのだ。彼らの全てがかかった夏で、大きなタイトルだった。みんな必死になって練習をしていたのを近くで見ていた私には痛いくらいにわかる。特に彼は主将ということもあってよく頑張っていた選手の一人だった。私たち秀徳は今年、キセキの世代緑間真太郎を手に入れ、鬼に金棒のようだと他所から言われていた。けれど、それでも驕ることなんて一切せずに、日々邁進と練習を積み重ねていたのだ。油断してはならぬ、勝って兜の緒を締めろ、と。


「どこか心に負けないという思いがあったのかもしれん」
「……」
「誠凛は去年より遥かに強かった。俺たちの勉強不足であり、なにより練習不足だ」


あれだけ練習してたじゃない、きゅっと唇を噛んでその言葉を殺す。そんなことを言うんだったら私のサポート不足もあっただろうし、試合後のケアなんかも足りてなかっただろう、選手だけのせいじゃない。しとしとと降っていた雨は、いつの間にかざあざあと強く降りだして、私たちを濡らした。早く彼を屋内に入れなきゃならないのに、体が動かない。こんなこと初めてで、ああ、私今きっと悲しいんだとわかった。なにが悲しいって、彼がこんな顔をしているのが悲しい。頑張ったのに報われなかったのが悲しい。私が、彼に何も言えないのが悲しい。


「まだ、冬があるよ」


やっとの思いで言えた言葉は震えていた。彼は目を少しだけ見開いて私の名を呼ぶ。私たちの最後の夏は終わったかもしれないけど、まだ最後に、冬があるよ。私たちはまだ終わってない。くしゃりともう濡れてべったりとしてしまった髪をなでる。その手は大きくて、それで固かった。


「……頂点を見せよう」


大坪、と言った私に目を合わせ、彼はサポート頼むなと一言だけ言う。気づけば雨は小雨になっていた。




瀬っちゃん主催のラスト・サマー・ライラック様に提出。
素敵な企画ありがとう!そして遅くてすいません。

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