雨の中に放り出されて何時間それに打たれていたのかも解らない。ただ気が付けばいつの間にか京次郎が傘をさして目の前に立っていたいたことだけが強烈に網膜に焼き付いている。手を、差し伸べてくれたことも。
 父親に捨てられたその日、来羅は魔死呂威組に拾われた。
「ちゃんと慣れましたよ」
 むっつりとしながらでもきょうじろさんがいいですと零す彼女に深々と吐息する。京次郎自身懐かれるのはいい。頼られるのも割と好き。だ。とは言っても二十に満たない少女に好かれるというのはいささか背徳感が否めないわけで。距離を詰めたいとはそれなりに思うものの、埋まらない年齢差がそれを力強く引き留める。だからといって組員にぺろりと喰べられてしまうのも非常に、癪。なのだが。
 三年前の雨の日。傘も持たずに独りきりで突っ立っていた来羅を思わず連れて帰ってしまった。親がいるとかいないとか、そういった常識的なことなんて全く考えないまま至極当たり前に手を取って。
「…今日は特にやることもねえ。外ほっつき歩くか」
 ぴこん、と効果音が付きそうな程来羅が反応する。着物のまま器用に膝で歩いて京次郎の傍らまで移動するときらきらとその瞳を輝かせた。それから真っ黒な着流しをがっちりと掴む。
「わ、わたしも、」
「端からそのつもりじゃけん、安心して付いて来りゃあいい」
「はいっ」
 にっこりと嬉しそうに笑った来羅に思わずどきりと心臓が高鳴った。



 ぶらぶら、特に行く宛もないので二人で並んで暇つぶし程度の散歩をする。すっかり年頃に成長した来羅には特に面白くもないような気もするのだが、けれどちゃんと嬉しそうに京次郎の隣をちょこちょこと歩いていた。来羅としては京次郎といられるだけで幸せだという乙女な思考が体いっぱいに詰まっているので文句があるはずもなく。その様子を不思議そうに眺めながら、当の京次郎はとりあえずどこかへ立ち寄ろうかとゆるゆる脳を働かせた。折角の暇な一日を有意義に過ごさないわけにはいかない。
「きょうじろさんきょうじろさん、甘いもの食べたくないですか?」
 無計画に歩きながら飲食店の建ち並ぶ通りに差し掛かった頃、解りやすくも美味しいと評判の甘味処を熱く見つめながら来羅が言葉を吐き出した。本人としては隠しているつもりなのだろうがまるっきり隠せていない。


 








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