京次郎の手が涙を拭うを止めて着物の合わせを無遠慮にひっ掴んだ。やめてくださいという来羅の制止も聴かずにがばりと無理やり胸元を大きく開く。派手な下着とバストが外気に晒された。ぼろぼろ、と涙がその上に降り落ちる。
「…キスマーク?」
 左胸の鎖骨の下、に。三つ、中途半端な色合いのそれが弱々しく咲いていた。来羅が暴れたために満足に付けられなかったのだろうが、あまりにも色が薄く虫さされに見えるような代物。言われなければ本当にそれで通ってしまうような鬱血ぷりだったが、当の来羅は至極嫌なようでぐずぐずと泣きじゃくっている。とりあえず怪我ではないので安心した京次郎がぽんぽんとその頭を撫でやった。
「気にせんでいい。三日もすれば消える」
 その間非常に腹立たしいけれども。
「…いや、です、っ」
「付いちまったもんは仕方ねえ。名前彫られるよりマシじゃ」
「でも、いやな、んです、!」
 ごしごしと乱暴に涙を拭いながら口を開く。それからぼそりと言われた言葉に、思わず。
「きょうじろさんじゃない男の人は、いやです、」
 それも、衝動的に。来羅を押し倒していた。薄く色付いたキスマークの上に唇を寄せて噛み付くように吸う。びくりと体の強張った来羅をよそに三つ綺麗に付けなおしてから首筋をべろりと舐めあげた。それからそこに新しくキスマークを付ける。
「これでええんか、来羅」
 ぽかんとする来羅を見下ろしながら濃く付いたのうとか呑気に言ってにまりと笑った。そして今度は耳元に唇を寄せて低い声で囁く。
「今度は三日じゃ消えん」
 舌が涙をなぞった。
「き、っ」
「わし以外嫌ってのは愛を告白してんのと変わらんが、解っとるんか?」
「――っ!」
 その言葉に、かっと来羅の顔が林檎よろしく真っ赤になる。畳に広がった髪を掬い上げながら耳まで赤色に染まった来羅を眺めて、それから。
 赤々とした唇に自分のそれを押し当てる。両手を押さえたまま抵抗がないのをいいことに無防備にも薄く開いていた口内へ舌を滑り込ませた。深く長く口付けて歯列をなぞり逃げる舌を追いかける。だらりと来羅の口から唾液が垂れ落ちた頃にやっと京次郎が唇を解放して軽く吐息した。息を止めていたのか肩で息をする来羅を見やって気まずそうに表情を歪める。


 








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