「きょ、じろさ、」
 ぽろぽろと先程拭ったばかりの涙が頬へ零れ落ちた。着物を握り締める両手はそれを同じように拭うことも出来ないままがたがたと震えるだけ。その来羅の様子に京次郎が眉根を寄せて――それから。
「…どうした、その格好」
 非道く着崩れた着物と腫れた左の頬に表情が険しくなる。がたがたと震える来羅の隣へ座り込んで優しく頭を撫でた。
「あ、あの、っ」
「ゆっくり言ってみい、ちゃんと待っとるけん安心しろ」
 そのいつになく優しい声音にひぐ、と喉が鳴いた。ぼろぼろと溢れた涙をやっと両手で乱暴に拭いながら我慢していた嗚咽が唇から零れ落ちる。
「こっ、こわかっ、た、怖かった、よう、っ」
「――っ」
 えぐえぐと泣きつく姿に不謹慎にもどきりと心臓が跳ねた。着崩れた着物から艶めかしく覗く白い脚や胸元に思わず目がいってしまう。そんな自分が情けなくて出来るだけ視界に入れないように来羅の震える体を抱き締めた。むに、と当たる胸の感触に逆にそれが失敗だったと気付いて軽くうなだれる。三年前はぺったりと平らだった胸が今では随分と成長したようで。
「…若のところへ行って、その後どうした」
「た、楽しくて。遅くなっちゃった、から。わたし、急いで、帰らなきゃって、思って、それ、で」
 つい、いつもは通らない暗い近道を通ったら。来羅は強姦に襲われた。
 冷たい地面に押し倒されて、両手を押さえつけられて。着物をぐちゃぐちゃにされて触られて殴られて犯されかけた。嫌で嫌で、怖くて怖くて。思い切り暴れたらたまたま足が強姦の急所にあたって怯んだところを急いで逃げ出したらしい。流石と言うべきなのかよく頑張ったと言うべきなのか解りかねるがとりあえず震える体をきつく抱き締めた。よしよしと頭を撫でてから来羅の顔を覗き込む。
「こんなに腫らして非道い男がおったもんじゃのう」
 腫れた左の頬を撫でながらぼろぼろと零れ落ちてくる涙を拭ってやる。昼間はあんなに楽しいと言いながらにこにこ笑っていたというのによもや泣かせるとは腹立たしい。眉根を寄せたせいで京次郎の眉間の皺がぐい、と濃くなった。
「他には、何かされたか?」
 そう何気なく京次郎が聞いた瞬間、あからさまに来羅の表情が曇った。解りやすくもぎゅっと胸元の着物をかき集めてそこを隠すことでここに何かありますと自ら告知する。


 








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