退の棺を火葬炉に突っ込んでいる機械を操作しているおじさんを全力で殴り倒したくなる。噫もうおじさんを生贄に捧げることで退を召還できないだろうか。遊●王的なノリで。
「オイコラ、なんつー面だ」
「え」
 ぐしゃぐしゃぐしゃぐしゃ。退がするよりずっと雑に乱暴に、もう撫でるとかいうより髪の毛を引っ掻き回すような勢いでひょっこり現れた土方に頭を撫でられる。力が強くて結構痛い。そういえばこいつは女の子への触れ方が破壊的に下手くそなんだと思い出してなんか笑えた。ら、顔が死んでるぞとか言われる始末。なんなんだ。
「最後だろうが。ちゃんと別れを告げてやれ」
 びしりと扉が開いたままの火葬炉を指さされる。ぶちぶち腐っていたあたしに気を遣っているのかおじさんが扉を閉める様子はまだない。ふざけんな。嫌だ。
「扉が閉まればお前らはこのまま離れ離れだ」
 解るな?こくり、と、頷く。だから嫌なんだ、だから。ただでさえ勝手に死んで離れ離れになって燃えてまた離れ離れになってしまうのにさよならなんて言えるわけがない。言いたくない。もう二度と、あたしが死んで生まれ変わろうがもう二度と、会えない気がする、のだ。さよならなんて言いたくない。とか感傷に浸っていたら再び土方の手に髪の毛を襲撃された。ほんとなんなんだお前、あたしに多少悲観的になる瞬間を与えろ。
「今日は晴天だ。アホみたいにな」
「だからなんだ、痛い」
「あいつの煙は空のずっと上まで昇って雲になるだろう。それで先に向こうにいった分と合流する」
 なんの話だよという言葉は三度の襲撃でついうっかり飲み込んでしまった。痛い、痛い。退、がいい。馬鹿。馬鹿。起きろ。
「心配しなくても雨になってお前に会いに来るから」
 その言葉は、その目は。あたしの脳内を覗き見たんじゃないかというぐらいどこか見透かしたようなそれで、あたしの考えていることなんてお見通しなのか土方は馬鹿だなお前と笑った。お前が好きで好きで仕方がない山崎が会いに来ないわけないだろ、と。笑った。
「だから今はさよならだ。どんな形であれまた会えると思えば悲しい気持ちもこれからの日々も、なんとかやり過ごせるだろうよ」
 いい加減扉を閉めようとしていたおじさんに沖田が待ったをかける。まだこいつがねィ、そう言ってあたしの頭を土方と違って有り得なく優しく、ぽんぽんと軽く撫で、て。それが退に似ていてつい振り仰いだ土方は退と同じ黒髪で、だから土方が退に見えてしまって無性に悲しくて悲しくてぽろろ、と涙が一粒落ちていった。ひぐ、と喉が無様に悲鳴をあげる。
「大好きだばーか、」



サイハテ




 ありふれた人生を、赤く色付けるような。たおやかな恋でした、たおやかな恋でした。
「…さよ、なら、」
 絞り出した声がゆっくりと火葬炉へ吸い込まれていく。雲が一つもない晴天の今日は、絶好のお別れ日和だコノヤロー。



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The mind song」様に提出∩^ω^∩
なんか実は書いてて自分で悲しくなりました。←


 






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