何寝てるんだばーか。言ってばしっとでこをひっぱたいたけれどもいつも温かかったそこがびっくりするぐらい冷たくて柔らかい皮膚の感触じゃなくて思わず手を引っ込める。一見寝ているように見えるその血色のいい肌色も唇もやっぱり所詮死に化粧なわけで、ひっぱたいたあたしの手には派手にファンデーションが付いてしまった。やべ、でこのファンデーション剥げてる。前髪で隠そう。
 化粧なんてされていい様だ、向こうで恥ずかしがってればいい。ついでにでこも痛がれ。痒くなれ。このミントン馬鹿。起きろ。
「…向こうは、」
 どんなところなんだろうねィ。と。沖田が退の冷たい冷たいほっぺたをつつきまわしながら呟いた。あたしが知るわけないでしょ、生きてるんだから。退が手紙でも書いて届けてくれたなら少しは解るかも知れないね。こんばんはみんな、俺は今無事向こう側に着きました。三途の川って結構大きいんだよ、びっくりしたなあ。ここはきれいな花でいっぱいです、それではまた逢える日まで。さようなら。
「はは、山崎なら花と一緒に届けてきそうだねィ」
「向こうの花なんて笑えないけどね」
 ざかざかと退の周りにみんなでたくさんの花をばら撒く。あらかじめ式場に用意されていた花たちはうっすいピンクや黄色や白ばっかりでなんだか嫌気が点してどうしようもなかった。沖田と目配せして二人で制服のポケットに隠し持っていた花を堂々と退の顔の周りに飾ってやる。少ししおれたかもしれない。でもミントン馬鹿にはこのくらいがお似合いだ。道端で摘んだ紅い花。
「あんたは地味だから、最後くらい派手にしてあげる」
 ぽんぽん、といつも退がしてくれたように地味の象徴である真っ黒の頭を撫でてやった。これからこのミントン馬鹿は燃やされて骨になってしまうのだ。この黒髪も燃えてしまって、意外と広い背中もぎゅーとかしてくれた腕もマメだらけな手の平もあたしとの思い出も全部全部、あたしが好きな退はひとつ残らず燃えてしまうのだ。
 退の棺に蓋が被せられて霊柩車に運ばれる。3Zのみんなとあたしは霊柩車に乗れないのでバスに乗車して火葬場に向かう霊柩車を追い掛けた。がたがた、ごとごと。10分くらい。火葬場についたら急に悲しくなって空が青いことも太陽が眩しいことも全部悲しくなった。何死んでるんだばーか。
「あーあ、行っちまうねィ」
 火葬炉に消えて行く棺を見ながら沖田が珍しくぼんやりしたようにそう言った。


 






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -