『おはよう、朝だよ』
 という言葉はどうやら幻聴だったようで、辺りを見回そうが部屋には誰もいなかった。噫割り切ったつもりだったのにと思ったところで心とやらはそうもいかないらしい、覚えている、のだ。何もかも。だから俺は未練がましく寝転がったまま天井を睨んでいるのであって、詰まり。早く君が俺を起こしにくるのを待ちわびているのです。ねえ俺は此処にいるよ。
 君にとっての俺には肩書きがたくさんあるわけで、親友だったり最低な友人だったり彼氏、だったり。色々持っているけれど兎に角元友人なんていうものにはなりたくないしそんな肩書きちっとも要らないのです。だって寂しいでしょう、そうであったものがそうではなくなるだなんて寂しすぎるでしょう。原因なんてものは頭の弱いらしい俺にはどうにも解らないから、だから今までそうだったように、君の疑問を俺が解決してきたように今度は君が俺のこのささやかな疑問に答えを下さい。「それはこうだ」と俺が答えるように、君も。
「ちょ、銀さんまだ寝てたんですか」
 呆れた。とでも言いたげな顔で新八が寝室を覗き込んでくる。だって起こしてくんねーんだもんと正当な理由を述べたがあんたいい大人だろーがと切り捨てられてしまった。噫そうか、こいつは知らないのだ。俺はどれだけ此処に、此処で君を待っただろう。俺の元に戻ってきたら俺はいつも通り寝ているので起こして下さい。
「今日は天気がいいんで布団干してくださいね」
「へいへい」
 遠回しに今すぐ起きろと言われたので渋々布団から這い出て窓を開ける。よっこらせ、と見事におっさんまっしぐらな言葉を吐き出しながら今まで寝ていた布団を担いで窓へ適当に引っ掛けた。空を振り仰げば確かにいい天気で眩しくて、噫広いなあなんて思ったりして。例えば君が空が広すぎて自分がちっぽけに思えたりして不安になって空という絶対的な存在が怖くなったのなら、心配せずに俺の元へ戻って来ればいい。そうしたら今度はちゃんと抱き締めるから、ちゃんと胸を借してあげるから。
「そういえば銀さん彼女とかいないんですか、此処に来て1ヶ月経ちますけど見たことないですよ」
「お前がくる前に別れた」
 あからさまに新八がやっちゃったとでも言いたげな表情をする。お前のお察しの通りやっちゃってますよコノヤロー。とはいえそれ以前に新八が此処へ来てから1ヶ月経過していたことに驚いた。まだそれだけだったのか、と。思って。


 






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -