「ちょっと、行ってくるわね」
 間髪容れずに妙やきゅうちゃんと一緒に数人の卒業生が舞台の隣へちんまりと設けられた部屋へと小走りに向かう。私とさっちゃんとの間にぽっかり開いた穴を埋めるようにさっちゃんがこちらへの距離を詰めて私の隣へ立った。「花ね、」というさっちゃんの言葉にこくりと頷く。ばたばたと花束を抱えたみんなが戻ってきて各クラスの担任と副担任、学年主任の前にずらりと並んだ。妙が服部先生からマイクを受け取る。
「馬鹿で騒がしい私たちを今まで見守って下さって、…本当にありがとうございました」
「ありがとうございました…!」
 一斉に頭を下げる。みんな声が震えている。泣いて、いる。つん、と鼻の奥が痛くなってじわりと両目が熱くなった。でも、我慢。泣くのが下手な私は一度泣くと止まらなくなってしまうから質が悪い。だから、我慢しよう。と、思っていたのに。
「やだ、銀さん泣いてる、じ、じゃないの、っ」
 妙ときゅうちゃんから花束を渡された瞬間、ぽろりと先生の死んだ目から涙が零れ落ちていた。ぼろぼろ。それで見事に涙腺崩壊、さっちゃんも言いながら泣き出してしまった。先生の泣き顔初めて見るなあなんて思ったりして、それでまた悲しくなって涙が出る。みんな泣いてる。みんなみんな、泣いているのだ。やっぱり先生はなんだかんだ言ってZ組の大切な担任で、目が死んでて、涙もろくて、慕われてて、ジャンプが好きで、甘党で、優しくて、発情しっぱなしで、兎に角。みんな大好きなんだ。
 A組の提案で服部先生以外の先生には内緒で歌うことになった曲が流れる。某素人高校野球映画のテーマソングであるそれの歌詞がみんなの写真をバックに映像でプロジェクターから映し出された。ひっくひっくと嗚咽がひっきりなしに口から零れる私では歌うことができない。それはみんなも同じだということは震えて弱々しい歌声や少ない音量のそれでよく解った。ハム子は頑張って歌っているけれどもよく知らないのか音程がはずれている。
「まっすぐにやれ、よそ見はするな。へたくそでいい、」
 先生は相変わらず泣いていて、悲しくて、噫やっぱり卒業したくないって思って。また明日から銀魂高校に登校して、Z組で遊んで笑って、同じ毎日をZ組のみんなで過ごしたい。
 大嫌いだった。こんな学校。早く卒業したかった。なのにこんなに大好きで、こんなに卒業が悲しくて。だから卒業式をぶっ壊したくなる。


 






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