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悶々と考えつつなみなみと注がれた酒を一口含み、いろにもらってそのまま持ってきていた鯉幟をゆらゆらと揺り動かしてみる。からからと中身の砂糖菓子が音をたてた。優雅とはお世辞にも言えない不格好さで鯉が泳いだ。黄色い飾りがくるくるとまわった。好いもの。好いもの? 「土方さん」 鯉幟とにらめっこをかましている土方の隣ににこにこ笑ったいろが腰を下ろした。大広間はものの数分で酔っ払いの掃き溜めに早変わりしていて誕生日パーティーどころではなく、そんなに羽目を外したかったのかとか呆れる半面これはこれでいいかとか日頃の働き振りをねぎらってみたりする。けれども少々見ているのは疲れるわけで。おまけに隣でにこにこ笑っているのがいろとなると疲労は増加の一途を辿るばかりでなんだか目眩がした。理解出来ないものは疲れる、己の手で、掴めないものを追いかけるのは。 「誕生日プレゼント物足りません?」 「まあな」 「うーん。じゃあとっておきなものあげますよ、ベタですけど許して下さいね」 言いながらするりと隊服のスカーフを解いて手早くボタンを外し、土方にだけ見える角度で隊服をはだけさせてその下の肌を見せる。突然のいろの行動にどきりとして思わず半歩後退したが、けれどちらりと見えた鎖骨の下に"文字"を見つけてふと動きを止めた。それからほとんど反射的に手を伸ばしてはだけた胸元をがばりと無遠慮に大きく開く。「――え」ふわり、と本来下着のある場所にはその代わりに蝶々結びにされたピンクいリボンが巻き付いていた。ぶちん、と開いた勢いでひき千切れたボタンがころころと畳の上を転がる。隊士たちの騒ぎ声が妙に遠くに聞こえた。 「…お前、酔ったか、?」 「厭ですねー、シラフですよ土方さん、」 けたけたと楽しそうにいろが笑う。ほう、とどこか意味深に吐息するとさっさといろを抱き上げ、そそくさと大広間を後にして自室へと向かった。どんどん、自分の為に用意された宴の喧騒が遠ざかる。噫なんだ、そう言うことか。 「加減しねえぞ」 「どうぞ」 「てめえは"プレゼント"。だからな」 「むふふ。火着いちゃいましたか」 「…。孕んだらどうすんだ、いいのか?」 「またまたー、解ってるくせに土方さんてば」 いろと居て疲れるのはつまり、いろの行動に自分が振り回されているからだ。掴みどころがないんじゃなくて単に自分が掴めなかっただけ。 「その時は土方さんがちゃんと責任とるんです」 「はっ。上等だ」 ふわり。胸元のピンクい蝶々が揺れた。ちらり。鎖骨の文字が見えた。こんなに回りくどいことをしなくてもいろなら好きの一言で俺を瞬殺できるのに。 それでもなんとも言えない幸福感。確かに、好いものを貰った。 「…好きだ」 「はい、知ってましたよ」 だから、と言葉を続けながらにっこりいろが笑った。とりあえずはもう少しだけ理解する努力をしよう、折角気持ちを掴めたのだから。
君の声で殺してよ
――だから、土方さんに全部あげます 頬に熱が集まったのはその言葉のせいじゃあない。
‐‐‐‐‐ 企画 「黒に溶ける」さまにに提出∩^ω^∩
作品リンクはぺっぷすさんのままです
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