ちらりと神楽を見やると目が赤くて、妙を見ても目が赤くて、今のところ平気そうなのは私とさっちゃんくらい。目が合ってなんとなく笑い合う。噫、卒業なんてしたくない。とか思いながらZ組のすぐ左側で歌っている先生たちへ視線を投げた。
「――!」
 失敗だった。
「あーさーゆうーなれーにしー、まなーびのーまどー」
 泣きそうな松平先生を見た瞬間笑いが込み上げてくる。ちょ、なんなの。なんなの片栗粉、なんでそんな面白い顔なの。とか考えつつ必死にげらげら笑ってしまいそうになるのをこらえる。それでもひくひくと揺れる肩を泣いているせいだとは思われたくないそんな心境。だって号泣してひっくひっくしてるみたいですごく嫌だ。はずい。じゃなくて。
「ほたーるのーともーしびー、つむーしらーゆきー」
 完全にKYになってしまった私が可哀想になってくる。極力松平先生を見ないように歌詞を凝視してみるけれどもあんまり効果はないらしく脳内に松平先生がちらちらした。ちょ、なんてこった。泣くより先に笑うのか私。卒業式なのに。
「わすーるるーまぞーなきー、ゆくーとしーつきー」
 それでも頑張って歌ってる私はえらいと思う。あとで誰かに誉めてもらおう、完全に声は震えているけれどもこの際気にしない。私、浮いてるなあ。
「いまーこそー、わかー、れ、めー」
 すっとどこかピアノの奥の方へと引いていくように一度音が途切れる。散々練習させられたところ、だ。一秒、二秒、三秒くらい。音楽の先生が再び鍵盤を優しく叩いた。
「いざー、さらーあばぁー」
 指導通り一部の子たちが最後の一文字にビブラートを利かせる。じゃん、と余韻を残したままピアノが終わった。在校生、蛍の光。と服部先生の声が響く。何時の間にか松平先生の呪縛から脱出できていてなんか感動した。もう顔は見ない。
「ちょ、やばいアル!な、なきそ、」
「うわああっ泣くなよ神楽あああっ」
 こちらを振り返ってそう言い放つ神楽を落ち着かせるためによしよしとピンク色の髪を撫でてやる。も、貰い泣きする。とか思いながら妙を振り返ると妙もまさしく泣きそうこいていて私の涙腺に多大な負担をかけた。さっちゃんは相変わらず涼しげな表情。や、やべ、松平先生ヘルプ!ぽろ、と神楽の真っ青な目から涙がこぼれ落ちて真っ白なほっぺたを滑り落ちていった。ごしごしと乱暴に神楽が目をこする。気付けば蛍の光も終盤で。ろくに聞かないまま、歌は静かに消えていってしまった。


 






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