今現在の日付、3月1日。天気は曇りのち雨。おかげで陽気が急に引っ込んでかなり肌寒い。予行練習から三回寝た今日は桜前線に欠片も引っかからないような、そんな日。先生の胸ポケットに突っ込まれたぴんくの花とみんなの胸ポケットに突っ込まれた赤いカーネーションが妙に今日という日を強調する。さっきまで教室で卒アル片手に騒ぎまくっていたのが遠い昔のようにみんな大人しかった。なんだこのギャップ。
「一同、起立。卒業の歌」
 仰げば尊し。
 司会の服部先生の言葉で舞台上に設置されたピアノへ音楽の先生が歩み寄る。三日前の予行練習で散々聞かされた音の組み合わせが体育館中に充満した。
 卒業式は式に突入してからも思いの外泣けなくて、そのままとっしーが代表で受け取った卒業証書授与も校長のお話もなんか修造並みに熱い誰の父親かも解らないPTA会長のお話も、誰だお前らっていう来賓の人たちの紹介も赴任していった先生たちの祝電披露も終わってしまって在校生の送別の言葉だって卒業生の巣立ちの言葉だって終わってしまった。毎年巣立ちの言葉は泣かされるか貰い泣きをする涙腺崩壊ポイントだったのだが今年は至って平々凡々、涙腺ゆるゆるなとっしーも泣かないようなそんな答辞で。答辞を読んだB組の中野さんは感極まって泣いていたけれど正直泣けるような要素は微塵もなかった。大変だったんだな、というのは解るけれども、それだけ。身構えていただけになんだか拍子抜けしてしまって。
「あーおーげばーとおーとしー、わがーしのーおんー」
 練習通りに、歌う。隣の神楽も三日前と同じく音をはずしまくりながら堂々と歌っていた。総悟は多分、また口パク。…じゃないかもしれない。珍しい。
「おしーえのーにわーにもー、はやーいくーとせー」
 プロジェクターが壁に映し出す歌詞を追い掛けながら大人しく歌う。高い声は出ないので相変わらずのアルト、君が代で一瞬ソプラノで歌ってみたら声がかすれたので止めた。なんて使えない喉。とはいえ、だ。
「おもーえばーいとーとしー、このーとしーつきー」
 この仰げば尊しという歌はかなりの実力者だったらしい。さすが卒業式に歌われるというかなんというか。兎に角。
「いまーこそー、わかーれめー」
 歌っていると悲しくなる、のだ。
「いざー、さらーあばー」
 中野さんの答辞で白けた体育館中の空気を呑み込んで否応無しに悲しくさせる。そう感じたのが私だけではないことはひっきりなしに聞こえるようになった鼻をすする音でよく解った。


 






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