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いつか田中からこの女をかっさらおうと計画しはじめて一年近く経ってしまったがどうやらやっと付きが回ってきたらしい。これはチャンスというやつではないだろうかとうはうはする気持ちをなんとかねじ伏せながらなんでもないように頬杖を付いてぶちぶち怒っているいろの横顔を見詰めた。本人が言う可憐という言葉とはかなりかけ離れているけれども、不意に見せる優しさだったり一途な性格だったりを総悟は知っているのでそんな魅力的ないろを捨ててもう一方のただのメス豚と付き合う田中の気が知れない。総悟が欲しくて欲しくて大切で大切で仕方がなかったものを一年も独り占めしていたくせにあまつさえ傷付けて捨てるだなんて。とは言ってもそんなこと死んでも本人に言う気はないが。 「まあ、人魚姫の王子にゃぴったりな野郎だねィ」 「本家の王子もただの馬鹿だしな!」 はっ。と鼻で笑いながらいろが総悟の牛乳をひったくる。あ、と中途半端に片手を伸ばす総悟を後目に残った牛乳を一気に飲み干してやった。パックの中身がすっかり空っぽになってからごめん貰ったとかかなり間違った順番で事を伝える。疲れたように総悟がわざとらしくため息を吐き出した。 「人魚姫のおねーさんたちもさ、短剣持ってきたなら代わりに殺してやれよって話だよねあー薄情」 「そういう考えしか浮かばないお前のが薄情だ」 「うるっせ。くっそー田中の野郎好きだったんだよ馬鹿やろうううう!!」 僅かに涙を溜めながらパック牛乳を握り締めた手をもう一度いろが振りかぶった。
王子様なんて殺せばいい。
「おーい田中、彼女とイチャコラしてる最中に悪いがちょっと来なせェ」 「沖田くん。何、珍しいね?」 「田中にそれはもう大事な大事な用事があってねィ」 「え、どうしたの?」 「短剣はねェから代わりにその顔面ぼっこぼこにしてやらァ」 翌日王子役が突然沖田総悟に変わったとかボコされた田中が校庭の木に逆さ吊りされていたとか。
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