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ねえねえおきたんすげーありえないのほら劇やるじゃんあの王子様役A組の田中なんだけどまじ死ね。 長々と息継ぎゼロでそう吐き捨てたいろはフローリングの床に這いつくばる言葉をぐりぐりと上靴を履いた左足で踏みにじった。総悟はへえ、とか興味なさげに相槌を打ってじゅるると購買で買ったパックの牛乳をストローですする。それからあれ、田中っていろの彼氏じゃなかろうかとか思い付いて僅かに小首を傾げた。仲良しで有名だったのだが喧嘩でもしたのだろうかとか思いつつ再びじゅるると牛乳をすする。 「彼氏なだけいいじゃねーかィ。喧嘩ぐらい我慢しろィ」 「やだよ喧嘩以前に別れたもん」 なんでもないように言われたその言葉にうっかり牛乳を吹き出しそうになる。え、まじでか。今別れ…あれ、うっそまじでか。とかもんもんと胸中で考えつつ危うく吹き出すところだった牛乳をごくりと飲み下した。もうすぐ付き合って一年経ちますえへへとかなんとかアホ面で告知してきて苛っとしたのを覚えているのだけど、まじでか。いやいやいや、なんでだ。 「今知ったんだけど」 「だって今言ったもん」 「死ねよ」 「死ぬべきは田中だあんの糞野郎。二股かました上にこの可憐ないろちゃんを振るだなんてえええ」 ぐじゃ、とペットボトルを握り潰す女のどのあたりが可憐なのかを是非とも問いたい。あたしは泡になんかなんねーぞうううっとか禍々しく言ってみせるいろを見てそういえば今年の文化祭の劇は人魚姫だったなとか至極どうでもいいことを思い出した。 愛しい王子様と結ばれたかった健気で可愛い人魚姫。結ばれなければ泡になって消えてしまうというリスクを負って声と引き換えに隣を歩く足を貰った。足なんかよりもずっと声の方が大切なのに人魚姫は馬鹿だ、隣を歩けようが愛を囁く声がなければそもそも結ばれもしないのに。それ以前に命の恩人を勘違いするような男なんぞ自分の命をかけてまで結ばれるような価値はない。 「絶対ナイフ刺してやる」 言っていろが握り潰したペットボトルを思い切り振りかぶる。それから教室の隅にあるゴミ箱目掛けてそれを力いっぱい放り投げた。ぼかん!と派手な音をたててプラスチック製のゴミ箱にべこべこのペットボトルが吸い込まれる。 「誰か変わってくんないかなあ。もう沖田でもいい」 「人を妥協案にすんじゃねェ」 とか言いつつ心臓は高鳴っているわけだけれども。
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