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バレンタインデーにチョコレートを渡すというのは存外効果的らしい。何故ならチョコレートには恋愛物質とやらが豊富に含まれていて擬似恋愛状態にさせることができるからである。因みに恋愛物質とは人間の脳が恋愛中に分泌する物質でときめきやなんかと関係があるとかないとか言われている不思議物質だとかなんとか。早い話がチョコレートは媚薬だと言うことが言いたいのである。 「ふーんへーえまじすごいね」 「興味持てよ女だろィ」 だってあたしが作るのカップケーキだもん、と俺の力説を簡単に切り捨てた彼女はせっせとノートから破り取った紙切れに至極見慣れた名前をつらつらと書き並べていた。妙神楽新ちゃん銀八とっしー、とそこまで書いてふと彼女の手が止まる。それからどこか考えるように小首を傾げるとねーねーそごちゃんと俺の腕をつついてきた。誰だそれ。 「誰だよそごちゃん」 「君だよそごちゃん」 びし。と彼女が手に持ったシャーペンで俺を堂々と指し示す。目の前に勢い良く突き付けられて思わず半歩ほど退いたが、そんな自分が無性にかっこ悪く感じて思い切りその手を叩き落としてやった。彼女は痛いとも言わずにとっしーってさ、と一度千切れた会話を簡単にくっつけてくるくるとシャーペンを指の間で器用に回す。いつも思うことだが彼女は些かマイペースすぎるというかなんというか。 「土方コノヤローがどうしたんでィ」 「とっしーってカップケーキ食べられるのかな」 「やつァ甘いもんが苦手でさァ」 「甘くないお惣菜カップケーキに変更しよう」 かりかりと再び紙切れに向き直ってとっしーの隣にお惣菜と書き添える。それから続けて銀八の隣に砂糖倍、神楽の隣に大きさ倍と付け足された。ほんの少しだけチャイナを羨ましく思った自分を全力で殴りたくなる。とは言っても大きさ倍って物凄くずるくないか。とか一人でぶちぶち考えているといつの間にか名前が紙切れに書き足されていた。 「近藤くんは大丈夫だよね、づらもいけるよね。おしまい」 「ちょちょちょ待ちなせェ」 「え」 シャーペンを筆箱に仕舞おうとしていた細腕をぎりぎりのところで掴む。待て待て待て。不測の自体につい変に力が入ってしまったのか彼女が僅かに眉をしかめる。「いーたーい」と呑気に言ってみせるとぶんぶんと手をぶんまわしながら何気に俺の手首をぐりっと捻りやがった。痛い。 「誰か忘れてらァ」 「誰ですか」 「自力で考えなせェ」
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