彼女は派手でも地味でもないごく普通の女の子で、どうしてZ組にいるのか疑問なくらい本当に普通な女の子。勉学良好、運動良好、社交性良好。成績は大体真ん中で時々授業中に寝ているというのも、嫌いな食べ物がピーマンで好きな食べ物が甘いものというのもごくごく普通、一般的。そして俺のことを中々覚えてくれないというのも、Z組内ではごく普通だった。
「ちょ、そこの…、…ジミー」
「えええ…」
 ついさっき名前教えたばっかりなんだけどとか思いながらなあに、と答える。彼女はノートかしてと実に簡潔に用件を伝えると寝てたんだよねと自分の真っ白なノートを開いて見せた。彼女はよく俺のノートを借りにくるくせに未だにその俺の名前をフルネームで答えられない。地味だからかと思っていたらどうも違うらしいのだ、だって俺と同じ部類の新八くんはちゃんとフルネームを記憶しているから。なんだこれ差別か。
「いい加減俺の名前覚えてよね」
 言いながらノートを手渡す。彼女はまあそのうち覚えられると思うよとか呑気に言って短いスカートの裾を翻しながら席へ戻ってしまった。完全に覚える気もねえよとか胸の中で呟きながら頬杖をついてかりかりとノートを写す彼女を見つめる。詰まりは、俺にあまり興味がないというZ組内ではごく普通のことなんだけれど。



 教室とは違って肌寒い階段を肩をすくめたままだらだらと上る。購買って面倒くさいから嫌いだ。とは言え弁当がないので頼る先は購買しかなかったわけだけれども。あんぱんじゃなくてクリームぱんが良かったなあと今更思いながら右手に掴んだそれへ一瞬視線を投げた。噫、焼きうどんでもよかったかも。とかなんとか考えているとばたばたと慌てたような足音が階段の上から聞こえてきた。今から走ってももう購買には殆ど食べ物なんてないんだけどなあとか無責任に思いつつたどり着いた踊場から階段を振り仰ぐ。物凄い勢いでひとつ上の踊場に姿を表したのはさっきの授業も睡魔に負けた彼女、だった。
「あ、ジミ、いっ!?」
「えええ!」
 自分の足元から俺へ視線を移動させた瞬間ずるりと彼女の細い足が滑る。ぎゃっ!とか言う可愛げの欠片もない悲鳴をあげながら彼女は尻餅をついてそのまま階段を落下した。だだだだ、と走っていた勢いのまま五、六段程滑り落ちたところでやっと止まる。ばくばくばく。必然的に急上昇した心拍数で変な汗が流れた。
「だ、大丈夫?」
「う、うん、…うん」


 






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