山崎さん今日もミントンですか?相変わらずお上手ですね、ですが向こうから土方さんが走ってきますよ。
 いつも俺が副長に隠れてミントンをしているとこっそりそうやって危険を知らせてくれる女中の彼女が好きだった。鈴を頃がしたようなという比喩がよく似合う声は耳に心地良くて、その声を聞く度にその姿を見る度に噫愛しいなって。いつかその隣を歩けたらなあと思うのが最近の俺の日課だった。彼女と話す時間が欲しくてミントンをやっているというのは内緒。
「山崎さん、私は真選組が好きです」
 にこにこ、そう言っていつも通りの笑顔を浮かべながら洗濯物を取り込んでいる彼女は何をしていても絵になって、高い位置で結われた短くも長くもない艶やかな黒髪は風に煽られて青空に漂った。彼女の笑顔は俺が知り得るどの女性よりも美しくて優しくて、それが俺へ向けられる度にやっぱりどうしたって愛しいという思いが胸をいっぱいにする。出来ることならその華奢な体を力一杯抱き締めたい。
「俺もここが好きだよ」
「同じですね、」
 ふふ、と控え目に笑う彼女があまりに綺麗で、俺はその笑顔をずっと覚えていたくてばれないように必死で目に焼き付けた。



「誰かと過ごす毎日はどうしてこんなにも素晴らしいのでしょうね」
 久しぶりに貰えた休みに、同じく休みをもらっていた彼女と一緒に部屋の前の縁側でのんびりと過ごす。噫、幸せだ。こんな日々が続けばいい。というか、俺が頑張って彼女に想いを伝えればいいだけなんだけれども。だからきっといつか。
「山崎さん、」
 伝えよう。と。思っていたのに。
「今日はお話がありまして」
 いつもの彼女からはまったく連想できない程悲しそうに笑いながら縁側の外に垂れた自分の爪先を見詰める。珍しく結われていない黒髪が俯いた拍子に彼女の顔を隠してしまってもう表情は解らなかった。その様子から彼女のお話というのが良い意味ではないということがよく解ってしまって、なんだか。心臓がずきずきと痛んだような気がした。
 どうしたの、と出来るだけいつも通りの自分を引っ張り出してなんでもないように相槌を打つ。どうしたの、ここを辞めてしまうの、もう。君には会えないの?
「山崎さん、私はここが好きです」
 ばさり、と黒髪が翻る。勢い良く空を振り仰いだ彼女はいつも通りの笑顔を浮かべていて、先程の悲しそうなそれは気のせいだったのではないかと都合のいい妄想が胸中に展開された。


 






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