届くはずないこと知ってたんだ

「風船じゃ、おたくが期待しているような処へ行ってはくれねえぞ」

『それだけ遠く

 何時の間にか俺の背後にいた阿伏兎は夢の無いことだけを言ってさっさと中へ戻っていってしまった。

それだけ遠く

 噫やっぱり俺の部下は、俺の"大事"な補佐は。俺の思いに共感してくれる俺のやることに文句をつけないで手伝ってくれる

君が行つてしまつただけさ』

 いろしかいないのだと妙に再認識させられた。

はじめからね、気球じゃ

届くはずないこと知ってたんだ

 そうしたらずきずきと心臓が痛んだけれど

『それだけ遠くそれだけ遠く

君が行つてしまつただけさ』

 俺はそれが嫌でまた気付かないふりをした。

それだけなのに。それだけなのに。

 ねえ、俺が行けばいいのかな。



ナルメリウスの
宇宙の舟。
ありったけの、
想いのせて。

今、

あいにいくから



「阿伏兎!春雨を飛ばそう」
「どうしたんだ急に。…ここから離れようとしなかったじゃねえか」
「いいから飛ばすの。宇宙に行きたくなった」
「そうかい」

はじめからね、
宇宙舟(こんなもの)じゃ

 いつものように春雨は飛ぶ。当たり前だった宇宙へ久しぶりに。離れていく墓標を窓越しに眺めながら手の中の"鈴"を握り締めた。壊れてしまわないように慎重に自分の力を加減して。ほんの少しの期待をしながら窓へ額をくっつけた。


 






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