力任せに刀を振り回していたあの時の自分といろはよく似ているようだ、言い表すのなら修羅。
「なんでだ」
 ぽつり、ぽつり。空が泣き出した。直に大雨に変わるであろう小雨はゆっくりと量を増やしながら辺りに降り落ちて赤い水溜まりに波紋を作る。雨の独特の匂いと血の生臭い臭いとが混ざってなんともいえない微妙な臭いが辺りに漂った。どれだけ雨が降ろうと血は洗い流せないらしい、赤は薄くもならないままやっぱり地面に水溜まりとして陣取っているだけだった。明日になれば地面は赤く変色しているのだろうか。血を吸った地面は赤色に。
「ぶっ殺された方も私たちと同じように帰りを待っている人がいて、大切な人がいて、」
 声色だけではいろが何を思っているのか皆目見当もつかない。その情報は声に感情がのらない彼女の前ではあまりに希薄で無意味だ。
「ぶっ殺されたと知ったら悲しんでくれる人がちゃんといて、…だから」
 虚しいな、と。
 ざ。と雨が唐突に激しく降り注いだ。いろの言葉の余韻は雨音に掻き消された。
 生きるか死ぬかの単純な世界、殺す側と殺される側とに別れるこの世界はきっと腐っている。修羅に埋もれ、修羅に生きる彼女はどこか雨に溶け出してしまいそうだった。
「…そうだな」



修羅に窒息




 自分の呟いた声もまた、雨音に掻き消されて多分いろには届かなかった。


 






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