それからすぐ身を翻して振り下ろされた長剣を受け流し、斬りかかってきた天人の腹を蹴り飛ばして持っていた得物を奪い取る。少女には多少重いであろうそれを片手で構えると逆に天人を斬りつけた。手負いだというのに動きは素早く、鉄の塊を片手にぶら下げて少女とは思えないような力を発揮する。先ほどは僅かに見えた表情が今では欠片もなかった。完全な無表情を称えながら驚くほど長けた剣術を持て余すように確実に相手を地面へ沈める。ぼたぼた血を撒き散らしながら天人を斬る彼女は、どこか泣いているようだった。



「先ほどは突き飛ばしてしまい、申し訳ございませんでした」
 それがすべて終わったあとの、少女の第一声だった。
 数十名いた天人をすべて斬ったというのに、天人の血は少女を汚すということを大してしていなくて。その事実が、少女の強さをまざまざと物語っていた。
「お怪我はありませんでしょうか。どこか、異状などはございませんか?」
 先ほどよりも更に、それこそ妙なほど丁寧な言葉遣いを気にしながらも銀時はふるふると首を横にふって「お嬢さんが大丈夫?」とか言いながら首を傾げ、その顔を覗き込んだ。彼女は寂しそうに少しだけ笑うと
「私などを心配してはなりません」
 やっぱり先ほどよりも丁寧な言葉遣いでやんわりと銀時を制した。それはもう、自分のことなど放っておけとでも言いたげな、そうであることが当然である様な、微妙な、それでも優しいイントネーションだった。残念ながら感情は欠落している様ではあったが。
「…あなた様は、」
「はいっ?」
 少女の言葉に思わず声をひっくり返す。あなた様、あなたさま。そんなにも敬いのこもった呼ばれ方は初めてでどこかむず痒くなってくる。というか単に、呼ばれ慣れしていないわけで。
『天パコノヤロー』
 いつもの自分の呼ばれ方を思い出すとなんだか笑えた。なんだろうかこの雲泥の差は。
「銀時」
「…はい、?」
「俺の名前。"坂田銀時"」
 言い終わると少女はきょとんとしたように大きな茶色の瞳をぱちりと瞬かせた。それからやんわり頬を緩めると
「了承しました。銀時さま」
 そう言って恭しく頭を下げた。
「…。お嬢さんの名前は?」
 名前の後ろについた"さま"を若干気にかけながら話を彼女の方へ転換する。名前を聞かれた彼女は驚いたように目を丸くした。


 








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