銃を持った天人が更ににやりと口角を上げた。
「兄ちゃんよお、ぬしも大人なら分かるじゃろ。知る必要の有るものと無いもの。この世にはその二つがあるわいな」
 今は一体どちらかや?
 まるで謎かけでもしている様に楽しそうな笑顔を貼り付けてけらけらと笑う。銃のセーフティーを外して多少ブレた焦点を再び銀時の眉間へ合わせると首を傾げてその顔を覗き込んだ。銀時は抱えた少女をぎゅっと抱きしめると片足を僅かにずらして自信たっぷりに口を開く。
「必要ある方」
「いいやない方」
 銀時の答えに貼り付けていた表情を引き剥がして即答する。言うと同時に銃の引き金を間髪入れず引ききった。バズン。とか鈍い音を響かせて鉛弾が飛び出した刹那、抱えられた形のまま器用に銀時を押し倒して代わりに少女が体を起こす。バシュ、と痛々しい音をたてて華奢な右肩から血が吹き出した。
「おま――」
 半ば呆然として言いかけた瞬間するりと腕の重みがいなくなった。思わず反射的に目の前の少女へ手を伸ばして倒れながらも服を掴もうとする。しかし真っ黒な異国の服へ届く前に銀時は背中を激しく地面に叩きつけた。ふわりと地面に降り立った血まみれな少女を半ばむせこみながら仰ぎ見る。ゆらりと自分を守る様に佇む姿は、あまりにも小さくて。
「おや鬼姫。そんなに恐ろしい顔をして一体何が気に障る?」
「お前らの、すべて。だ」
「…ほう」
「泣いて詫びろ」
 言い切るより早く少女が天人に飛びかかった。まるで場面を飛ばした様に一歩踏み出しただけでその場からいなくなっていて――気がついた時には数メートル離れた天人の目の前に佇んでいた。反応に遅れた天人の足を屈んで払い、身長差を無くすように跳躍ながらぐらついた体を横から蹴りつけた。
「――うがあっ!?」
 ミシっ!と蹴りつけられたあばら骨が悲鳴をあげ、天人自身も妙な声をあげて少女が蹴った方向へまっすぐ吹っ飛んでいく。民家の壁に体がぶち当たったのを確認すると少女は妖艶ににやりと笑った。

「私の前で、お前らは無力。だ」

 その言葉を合図に天人が一斉に少女へ飛びかかる。二本有るうちの飾りの無い長剣を抜刀して少女の体を斬りつけようと上から下へ振り下ろした。少女は一瞬銀時を振り返ると、
「隠れて下さい」
 囁くようにそう言った。


 








「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -