半ば混乱して声を荒げながら叫び、目の前の少女を凝視する。左肩から右の側腹部に刀で一断ちされたような傷がぱっくり口を開いていた。黒い服を着ていたせいでよく分からなかったが、かなり服は血で汚れているようだ。銀時の着流しを汚したのが彼女の血だと一目で解る。
「何したの!?ちょ、何したの!!病院行くぞ病院!!」
 相手の意見も聞かずにぐいぐいと手を引っ張って無理矢理病院に連行しようとする。「ま、待って、大丈夫です、」困ったように言いながら彼女が銀時の手から自分の手を引き抜いた時だった。
 ぐにゃり、と視界が犯されて激しい目眩が視界を朧気にする。平衡感覚が狂って足元がふらついた。ぐらりと傾いだ体を支える事も出来ずに銀時の真横をすり抜け、どさりと荷物を放り投げたような音が響く。硬い地面の上にその細い体を投げ出した。倒れ込んだ衝撃で一際酷く傷口が痛んで地面に転がったまま体を折り曲げて悶絶する。どろどろとその場に真っ赤な水たまりが広がった。
 急速に意識が白濁する。全身に倦怠感が広がる。体の神経が死んだような感覚に陥って腕を動かすことも億劫だった。銀時がその傍らに膝をついて華奢な体を抱き起こす。
「お嬢さんんんん!!大丈、夫じゃないよねさっき"うん"なんてひとっことも言ってないもんね、っていうか他に聞き方あるかバカヤロォオっ!!!」
 目に見える、動揺。 ああ、この人はちゃんと人間なんだとか場違いなほど冷静に考えた。自分にはまだ。そんな部分が残っているのだろうか。
「とりあえず病院行こ!ねっ!」
 うろたえながら立ち上がり、優しく彼女を抱きかかえて病院へ行こうと足を踏み出した時だった。

 ――カチャ。

 無機質な音に足が止まる。腕に抱えた少女が、僅かにため息した様な気がした。
「何かご用ですか?」
 首をひねって背後を振り返り、睨む様な視線を向けて銃を構える"天人"を無表情に見やる。
「兄ちゃん、“それ”から手を離してくれんかや。ワシらの商い道具じゃ、人様に売るものじゃあありんせん」
 訛りを目立たせながらそう言う天人は数十名はいるだろう中で一番若い男だった。ゆったりと一歩二人のもとへ踏み出す。青い肌に瞳孔の開いた真っ赤な瞳。にやにやとした薄っぺらい表情を張り付けて、銃の照準を銀時の眉間に合わせながら同じようにゆったりと近付いていく。ほう。と関心した様に銀時が声を上げた。
「商い道具ですか、尋常じゃないねぇ。女の子をモノ扱いですか」
 少女をしっかりかかえて天人を睨みつけ、いつでも逃げられる様に辺りへ視線を巡らせておく。


 








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