満月というものは存外強敵だったようで、五感や回復力が常人にまで落ち込んだ他に免疫力というのもがくんと落っこちたようだった。昨日散々雨に打たれた結果、恐らく常人以下にまで下がった免疫は風邪菌に打ち勝てなかったようで。至極当然にはすは風邪をひいて熱を出して寝込んでいる。厄介な野郎だなとかぼんやり考えながらニ日前の満月を銀時は無意味に恨んだ。俺のはすちゃんに何さらしてくれとんじゃ。ともあれ、うつる、うるさい、という理由でガキ二人を放り出せたのはそれなりに役得だったかもしれない。二人きり。
「あの、銀時さま、」
「はすちゃん違うでしょ、俺は銀ちゃん。銀さんでもいいぞ」
「…銀、ちゃん」
 なあに?とか言いながらよしよしと茶色い髪を撫でてやる。前髪をかき分けて熱い額に手を添えるとはすは気持ちよさそうに僅かに目を細めながらふっと細く吐息した。熱にやられてうるうるしている瞳はどストライクに要らない気分を煽ってくれるというか正直に白状するとムラムラしてくるので極力見ないようにする。もうなんでこんなに可愛いのこの子。喰べちゃいたい。じゃなくて。ゆっくりとはすの細腕が布団から伸びて自分の額を撫でる銀時の手をやんわりと掴む。傷口自体は殆ど塞がってはいるものの相変わらずぐるぐると巻かれた包帯はやっぱりどうしたって痛々しかった。
「本来ならば、私がお世話をしなければいけないのに、」
 ごめんなさい。
 中途半端に敬語の取っ払われた言葉や依然としてうるうると揺らいでいる瞳に不謹慎にもきゅんとさせられる。赤い顔にのった気怠げな表情や浅く繰り返される吐息についいかがわしい妄想をしてしまって全力で自分を殴り殺したくなった。不思議そうに銀時を見上げるはすの視線に気付いて自分の妄想を誤魔化すようにこほんとわざとらしい咳をひとつ。
「俺たちははすと仲良くなりたいんだよ。だから世話とか、そういうことは気にしなくていいの」
 言ってにっこりと笑いかける。それからこのシチュエーションに便乗してはすの手を握ろうとした時だった。
 ぴん、ぽーん。と間延びした音が家中に響き渡る。突然の来客を告げたチャイム音にまた家賃の取り立てかと銀時は反射的に身構えたが、続けて響いた声はお届けものでーすという同じく間延びした男のそれだった。


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