先程と同じようにバランスを崩した体を捻って着地をするとじくじくと木刀に打たれた横っ腹が痛んだ。思わず地面に片膝をつく。
「お兄さんは実に愉快だ、せっかく生かしてあげようと思ったのに」
 取り消しだよ。
 早口に言うとふらふらと視線を辺りに漂わせる。ぎら、と真っ赤な双眸が銀時を通り越してその向こう側を睨み付けた。
「夜兎のお嬢さんには帰ってきてもらわなきゃ」
 神楽の足は速い。身軽さも手伝っていることもあって今から追いかけてもまず追いつけないはずだ。民家の屋根でもなんでもいいから、真選組屯所まで最短ルートを全力疾走しろと銀時に言いつけられている。銀時自身あそこに頼るのは非常に癪だったが致し方ない、万事屋だけではどうにもならないのだこの問題は。星が絡んでは警察に頼らざるを得ないわけで。
 けれど。気にかかって仕方のない問題が、ひとつだけ。
 ――はすは、保護の対象になるのだろうか。
 仕事で何人もの命を、自分の意思ではないにしろ沢山散らせたはすという朱鬼の姫君は。小さくか弱い鬼姫は。保護に足りる、人間なのだろうかと。
「はすは、人間じゃあないし天人でもない」
 それは
「だから保護の対象にはならないし」
 その、言葉は
「裁きの対象にも、ならない」
 深々と銀時の胸に突き刺さった。
「はすは道具として、この浮き世に存在しているから」
 ぶちり。と脳内で音が響いたような気がした。気が付いた時には体が先に反応していてしゃがみこんでいるナギに走り寄っていた。木刀を振り上げて思い切りその脳天に叩きつける。がきん!と組み合った長剣が耳障りな音をたててぱきりと僅かに破損した。驚いたようにナギの真っ赤な双眸が見開かれる。
「ナメてんの、君」
「…やだな、本当のこと言っただけだよ」
 銀時の低い声音に若干引きつった笑顔を貼り付けてぶわりと左足を振り上げる、それと同時に上体を倒して木刀から伝わる力を逃がした。かなりの力で組み合っていたため、反応しきれずに銀時の体がつんのめって体勢を崩したところをナギが思い切り蹴りつける。めし。と右わき腹から厭な音が小さく響いた。蹴りつけられた勢いで銀時の体が軽く吹っ飛んで地面に押し倒され、蹴りつけた勢いでナギの体がぐるりと一回転して地面に背中を打ちつける。二人同時に激しくせき込んだ。
「ちょ、めしっていったんだけどォオ!」
「あは!お兄さんタフだね」


 








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