後頭部を相変わらず両手で押さえながら銀時が吠えた。
「違うだろォオオ!!!なんで俺に踵落とし!!?あれ!!?もしかしててめえって俺のこと!!?」
「気安くはすに触ってんじゃねーヨ」
「俺かよォォオオオ!!!」
 高い位置からの踵落としはかなり強烈だったようで、その威力を物語るようにだらだらと銀色の髪をかき分けて真っ赤な血が流れ出ていた。けれど当の本人は一応元気ではあるらしい。神楽からはすを奪い返そうと取っ組み合いを始めている。戦闘前に流血沙汰、緊張感なんてとっくにぶっ飛んでしまった。いつもはこの状況を収めてくれる新八はまだ追いつかないのか来ていない。このままエンドレスに突入するかと思った刹那、二人のやり取りをぽかんと見つめていたナギがおかしそうに吹き出した。
「お兄さん方愉快だ。実に愉快」
 にんまりと口角をあげて目を細め、にやにやと笑顔を貼り付けて楽しそうな軽い口調で歌うように。けれど、目の奥は。まったく笑ってなどいなかった。一時も神楽に抱えられたはすから視線を逸らさずに相変わらずの笑顔を貼り付けている。
「その愉快加減に免じて"殺さないであげる"、でも、はすは返して」
 それを言い切る前に腰にぶら下げていた長剣を引き抜いてさっさと神楽に斬りかかった。銃を常用しているナギにはお飾り程度のものだったが、それでも本人の腕はいいようで。その早さに反応しそこねた神楽に代わって銀時が木刀でそれを受け止めて思い切り薙いだ。力負けしたナギが真横に吹っ飛ばされたが、しかしくるりと体を捻ってサーカスよろしくきれいに着地してみせる。にやりとした笑顔は少しも剥がれない。あっぶねえなゴルァア!!と盛大に神楽が叫んだ。
「はすは返せねぇよ」
 言って今度は銀時が斬りかかる。ぶわ、とかなりの速さで振り下ろされる木刀に風がまとわりついてナギの黒髪をざわざわと揺らした。がっつりと再び組み合って二人同時ににやりと笑い、今度はナギが木刀を振り払う。真上に払ったためにがら空きになった腹を銀時が蹴りつけた。
 ちらりと二人の乱闘を横目で見やって"その瞬間"を探す。銀時が木刀を振るう度に自分と距離が開くのを確認すると神楽ははすを慎重に背負った。ナギの注意が完全に銀時へ逸れた瞬間、両脚に力を込めて民家の屋根へ飛び乗る。その僅かな音に反応したのか唐突にナギの視線が神楽へ注がれた。刹那、頬が引きつる。
「なん――」
 不測の事態に一瞬集中力が途切れて思い切り横っ腹に木刀が叩き込まれ、めきっという不穏な音が聞こえたような気がして思わず舌打ち。


 








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