「四歳の時、私は狩殺の星へ」
 ゆらゆら、不安げにまだあどけなさの残る瞳が揺れる。それでも表情はあくまで自嘲的で、僅かに乗った笑顔は確かに笑っているのにどこか泣いているようだった。可哀想だと言うには重すぎる日々、そんな言葉では彼女の今までを纏めることなんてできないのだ。傷付き傷付けるために生まれた、朱鬼の姫君。
「親はいなかったので都合が良かったのでしょう。実験体を同族から出すわけにはいきませんから」
 はすが狩殺の星に連行された当時、狩殺族は丈夫で強く、絶対的な服従を誓う"道具"を欲しがっていた。理由はど派手に殺しをしたい性分の狩殺には向いていない、暗殺の依頼を補うためというのがひとつ。そして繁殖力が乏しく、人員の減った狩殺族自体を補うためというのが主な理由だった。"物"では誰かが操らなければいけない。それでは造る意味がない。では何が一番手っ取り早く、そして自立させる事が可能なのか。天才的な頭脳を持つ狩殺にはあまりにも簡単な問題点だった。"生物"に手を、加えればいい。
「生きた物ならわざわざ誰かが操る必要もない。躾を徹底的に叩き込めばいい。あとはどうやってか弱い生き物を強く、壊れないための手を加えるか」
 寂しそうな声音だった。あまりにも痛い声音だった。中途半端な優しさではきっと救ってはあげられない、道具として生まれたはすの気持ちなど凡人である自分たちには解るはずもないのだ。
「簡単です。遺伝子を組み換え、石を埋め込めばいい」
 淡白な言い方が言葉を更に重くする。華奢なはすは言葉にすべて押し潰されてしまいそうで。
「各傭兵部族の遺伝子を組み込み、更に強化をする。私を構成する遺伝子は、既に私であるための配列を留めてはいないのです」
 早い話が。人間であることの、否定。けれど天人でもないのだ。遺伝子を持ち、そこに刻まれた通りの力が発揮されようともはすは天人にはなれない。どれほど強くてもベースはか弱い地球人、そこにいくつ超人的な遺伝子を組み込んでもはすは天人にはなれない。それは鬼姫という存在が造られたそれでしかない、から。
「私は、人間ではありません。天人でもありません。どちらに荷担することもできない私は、道具。です」
 ゆらゆら、茶色い瞳が揺れる。目の奥の感情が、死んでいく。神楽や銀時を映しているようでなにも映し出してはいない茶色の瞳。


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