「ちょっとォオ!!なにが可哀想なんですかァア!?」
「決まってるネ、おつむヨ」
「イジメかァア!!イジメなのかァアア!!」
 新八の悲鳴紛いな叫び声が部屋中に木霊する。ぐっちゃり邪魔されてしまった自己紹介で解ったことは結局名前と年齢ぐらいだった。アイドルオタクの変態というのは定かではないのでとりあえず除外。きゃーきゃー銀時たちと騒ぐ新八を見てきっと優しくて良い子なんだろうなと頭の片隅でぼんやりと考える。周りに一緒に今を生きてくれる人がいることを少し羨ましく思ったりしながらはすは僅かに表情を曇らせた。自分の手を眺めて浅く息を吐き出す。
 もう取り戻せないものというのはどうしてこうも鮮明に記憶へへばり付くのか。毎日毎日思い出しては悲しくて苦しい思いだけを残して記憶の奥へ隠れてしまう。いつかこの痛みから救われるだろうか。否。自分は救われてはいけない。
「はす?」
「は、い」
 銀時の声に深く沈んでいた思考の奥から引っ張り出される。一拍遅れて返事をして自分を上から見つめている銀時を見上げた。
「どうした?痛い、か?」
 心配そうに顔を覗き込みながら目線を合わせるために中腰になり、ぐりぐりと優しく頭を撫でられる。はすは小さく問題ありません、と呟くと、人形のような足りない笑顔を作った。完璧な笑顔。それでも、なにか。足りないえがお。
「それで、二人はどういった知り合いなんですか?こんなに若い方と友達だなんて珍しいですね」
 小首を傾げる新八に珍しく神楽が賛同し、教えろとばかりに碧い瞳が無垢そのものになる。しかし自分の問題ではないのでそう軽々と教えるわけにもいかず、どうしようかと悩んでちらりとはすの方へと視線を投げた。あれだけの数の天人に追われ、了いには殺されかけたのだ。はすが逃げている理由はきっと尋常なものではないわけで。ぐるぐると銀時が考える中、次の瞬間唐突に言われたはすの言葉で部屋の空気が固まった。
「銀時さまが、私を拾ってくれたの」
「…銀時、"さま"?」
 新八と神楽の瞳が軽蔑するような眼差しを露骨に銀時へ向ける。神楽の銃が仕込まれている和傘がガシャンとか不吉な音をたてた。
「ちょ、誤解だァア!!」
 盛大に叫びながら小さなはすの後ろに銀時が隠れる。


 








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