その言葉にぴくりとはすの華奢な肩が揺れた。
「いえ、ただ」
 淡々とした言葉が紡がれる。ただ。
「決まり、ですから」
 酷く切ないその顔に思わず息が詰まった。きっと笑えば可愛いはずなのにそんな顔も思い浮かべることができない程悲しいはすの表情。今にも泣き出してしまいそうに見えるのは思い過ごし、だろうか。
「…でも、私、はすと仲良くなりたいヨ。敬語はよそよそしくて嫌アル」
 ぽろりとこぼれた神楽の言葉に、思わず泣きたい様な衝動にかられた。初対面だというのに優しくて親切な可愛らしい女の子。名前を知りたいと言ってくれて、名前を褒めてくて、仲良くなりたいと、言ってくれて。笑って、くれた。
『はす!いい名前アル!』
 その笑顔に、ひどく。救われた。もう十分だと、言われた様で。もう大丈夫だと、言われた様で。自分が今までしてきたことを、なんだかすべて許してもらえた様な気がした。
「わかりました」
 呟いてからこれでいいのかと自問する。飽くまで人には敬意を表さなければいけなくて、関わった人は、助けなければいけなくて。しつけ通りに。従わなければ、いけなくて。それでも。
「敬語は控えます」
 彼女が喜んで、くれるなら。
「…おっしゃぁああ!」
 一拍遅れて盛大に叫び、驚いて固まっているはすに飛びついて力いっぱい抱きしめる。神楽は嬉しそうににっこりと笑うとはすの華奢な肩へ顔をうめた。優しい声音でゆっくりと呟く。
「私とはすは、お友達アル」
 その、言葉は。じんわりじんわりとはすの耳朶に染み込んだ。暖かい神楽の体温を感じて安心感がこみ上げる。
「…ありがとう、」
 そうやって呟いた言葉は、しっかりと神楽の聴覚へ響いて溶けた。
 少ししてから神楽は先に着替えて玄関に追いやられていた銀時を迎えに部屋を出て行った。一人部屋に残ったはすは自分の姿を見下ろして吐息する、鮮やかな赤色のチャイナドレスは自分が着ると台無しだった。袖のないドレスからははすの肩や腕に巻かれた包帯が露出してその雰囲気をぶち壊している。足には傷が無いことがある意味で救いだ。神楽は黒いズボンを用意してくれたが、身長の差で裾を引きずってしまうために遠慮したのでその足が外に惜しげもなく晒されている。


 








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