抜粋じゃねーよとかぶつぶつ悪態をつきながらふらふらとはすの寝かされているソファーへ移動する。平和そうな寝顔を見せて眠るはすはどこから見ても普通の女の子だった。幾分か平均的に見て小さい気もするが、それでも十代後半であることは間違いない。多少なりとも自分の目には自信があるわけで。
「銀ちゃんこの子誰アルか?病院の服きてるネ。ちゃんと知り合いなんだろーな」
「…当たり前でしょ、銀さんのお友達ですう。怪我したから病院行ったんですう」
 物騒な言葉遣いがうっかり紛れ込んでいたけれども、きっと聞き間違いに違いないとか半ば言い聞かせるようにその言葉を咀嚼する。神楽は銀時の答えに「ふーん」と疑わしそうに返すと一応納得はしたのかテレビをつけてそちらに意識を集中させた。最近夢中の昼ドラにテンションが上がったのか、座りもしないでテレビ画面を凝視している。
「ピン子いけぇええっ!」
 奇声を発する神楽を放置して自分と一緒に吹っ飛んだソファーを直すと再びはすの顔を覗き込んだ。子供から大人に変わろうとする十代後半はどちらともいえない独特な雰囲気が混ざり込んでいて格別可愛い。それに当てはまるはすを見ていると思わず頬がにやけてくるのだが、決して変な意味でない。それでも先ほどのはすの姿を思い出すと感嘆の声を漏らさずにはいられないわけで。少女にしては異常の部位に入る長けた剣術と、大人をふっ飛ばす尋常ではない力。一瞬その力の強さと肌の白さに夜兎かと思い当たったが、それにしては日に焼けていて何よりある意味目印である日傘を身に付けていなかった。それに本物の夜兎である神楽とは大違いだ、あんなに乱暴ではない。言葉遣いもたち振る舞いも素晴らしいほど丁寧で、しかし幾らか丁寧すぎる気も腑に落ちないところもあるのだが。
 誰にどう教え込まれたのか、赤の他人の名前に様をくっつける少女などそうはいない。遊女ならなにかしらつけるだろうが、それにしたって様は大げさすぎる気もする。それに、なにより気になるのは天人の言ったあの言葉。

 ワシらの商い道具じゃて――

「"おにひめ"」
 気付けば無意識のうちに呟いていた。名前を聞いたときはすが真っ先に口にした言葉、『鬼姫』。名前とも、呼称ともとれる、それでも名前ではない妙な言葉。あの見慣れない天人がはすに向けて言ったその言葉を。


 








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