上下するはすの胸が更に視覚から安堵感を伝えてくれた。大丈夫大丈夫。言い聞かせるように小さく口の中で繰り返す。
 大丈夫。彼女はまだ、生きている。



 くうくうと落ち着いた寝息をたてるはすを依然大切に抱えながら、先ほどより少し歩調を緩めて家路を急ぐ。眠る小さな彼女が目を覚まして痛がらないように極力振動を殺してやった。
 小さい体だった。少し力を込めて抱きしめれば、簡単に壊れてしまうような気がした。誰にも触らせたくないだなんて酷く滑稽でくだらないことだったが、けれど嫌に真剣な自分が確かに脳内を陣取っている。この小さな彼女を、真っ白で華奢な、体を。誰にも傷つけさせたくはないと会って間もない自分に言う権利はあるのだろうか。一気に気分が滅入ったのは多分気のせいなんてものじゃなく。
「…いいやもう」
 悶々と考えている自分が何だか阿呆くさく感じて嫌気が点した。とりあえず気分を変えようと気休めにぐるりとごきごきいわせながら首を回して盛大に吐息する。"スナックお登勢"とかかれた家の前で立ち止まると「まあそれはいいとして」とか言いながら僅かに笑った。

 生きててくれて、

 よかった。





continue。



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