――不死、です

 その言葉を信じきったわけでもないのにそうで在ればいいと願っていた。はすの言う不死が、本当にその体に作用していればいいと。つまりはなんでもよかったのだ、はすが死なないという確証が出来るのならば。
 病院患者特有の服に身を包んで眠るはすは止血を開始した時点ですでに人間本来の血色に戻っていた。傷口の手当てをした今ではまったくと言っていい程怪我人には見えず、不死という言葉が真実味を帯びるわけで。先ほどの剣術と怪力を見る限りは"普通"の子ではないのだろうが、僅かに寝息をたててもぞりと動く姿を見ていると年相応な普通の女の子に思えてくる。普通の子じゃなかろうがそれでも気味が悪いとは思わない、剣術が長けているということは素晴らしいことだ。それにあれは正当防衛なのだから誰にも気味が悪いなんて言わせないし、自分だってまったく言う気もない。
「――っ」
 思いのほか結構な負担をかけていたらしい、とりあえずは服を与えようと家路を急いでいたのだが体にかなりの振動を伝えていたようだ。けほけほと軽く咳き込みながらはすが目を覚まして焦点の合わない瞳がぼんやりと銀時を映した。
「わり、痛かったか…?」
「問題、ありません」
 途切れ途切れの荒い息をつきながら、気を使った様に呻き声を飲み下す。辛いだろうに気を使わせてしまって申し訳ないと思いながらそれでもそれ以上に何かができるわけでもなく。無力感に目眩がしそうだった。
 もうだれも、かのじょをきずつけないでください。
 気付けばそうやって願っていた。もう十分だからと言いたかった。どうして天人に追われているのかも、どこからきた迷子かも、何も知らないけれど。ただはすは十分に苦しんだのだから。だからもう誰も、傷つけないでほしいと。どうしてかそうやってそうやって、必死になって願っていた。彼女のことを、何も知らないけれど。
 もう誰もはすに触るな、
「…今どこへ、」
「俺んち。服いるだろ?」
 そう言いながらはすの患者服を目で示すと納得したように茶色の瞳を細めた。安堵したのかほっと小さく吐息して――
「あり、が」とう。
 電池のきれた人形よろしくかくりと力を失った。その中途半端な言葉にもしかして死んだのかと思わず体を強ばらせたが、しかし寝息が僅かに聞こえてきてほっと胸をなで下ろす。


 








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