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その急速に衰退した姿を見て心臓を掴まれたような気持ちになる。機械的な言葉遣いでも、いくら大量に天人をなぎ倒しても、所詮は小さな女の子なのだ。痛ければ苦しいし、辛いし、当然に血も流れ出て死にかける。 「…病院は、あまり、」 はすの傷では恐らく入院させられだろうが、重傷である本人が遠回しに病院は嫌だと訴えて表情を曇らせた。そんなに切ない顔をされては無理強いする訳にもいかず、けれど血が流れ落ち続けている傷口を塞がない訳にもいかない。困ったように銀時が唸った刹那、はすが寂しそうに表情を歪めた。血色の悪い唇がゆっくりと動く。 「それに、私は」 幻聴、だと思った。僅かに乱れた呼吸の中に忍ばされた、あまりにも浮き世離れしたその言葉。それでも彼女は言ったのだ。
「"不死"、です」
思わず一瞬動きが止まる。一時的に思考が停止してしまって何かを考えることができない。…今。なんて、いった? 「…え、?」 「実質、"限りなく近い"だけ、ですが、私は一定の条件下で、ある意味での不死が成立します」 淡々とした口調と言葉がだらだらと脳内に流れ込んで、けれど意味をうまく汲み取ることが出来なかった。不死。ある意味での、不死? 「平たく言うならば」 表情はない。それでも茶色い眼の奥は不安げにゆらゆらと揺らいでいて。 「どの傷も、致命傷にはならないのです、」 ただ、老いて死ぬだけ。 そう言うはすはやっぱり泣いているようだった。
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「入院はしませんつってんだろうがぁあぁああっ!!」 大声で叫びつつ走って病院から逃避する。血相を変えて追いかけてくる看護婦さんたちを振り切って細い道へ逃げ込んだ。だって手当てだけだって約束したんだ、当然の行動じゃないか入院させろとか言われたら。腕には明らかに患者さんとなったはすを抱え、血の汚れが目立つ着流しは病院に放置してばたばたと道を駆け抜けた。 あれから、結局病院へ行くことになった。はすの言う不死というものを信じなかったわけではないが、かと言って信じきったわけでもなかった。あの状況で嘘を吐く余裕は無いだろうし、けれど血は止まらなかったのだ。とりあえずは傷口の手当てだけ、という約束を交わして今に至る。
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