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「は――」 はすの唐突な問いかけに思わず言葉を詰まらせる。なんの感情も乗っていない完璧な無表情は時折咳き込む時に僅かな変化があるだけ。人形の様な、にんゲン。不意に銀時がむっとしたように眉を釣り上げて死んだ魚の目に近いそれを珍しく怒気で滲ませた。何を言っているんだと、言うように。 「気味が、悪くはないのですか。子供が、それも、女が。天人を躊躇いもせず、斬った。のですよ」 「…はす」 「捨て置けば、いいのです」 「はすちゃん。やめなさい、」 「見ず知らずの、それも、天人に終われて、いるような」 「はす、」 「死にぞこないの、私など」 「はすやめろ」 「拾ったところで、荷物になるだけ。ならば。捨てていくのが、道理だと」 「いい加減にしろ!!」 びくりと肩を震わせて目を見開き、心底驚いた様にはすが息をのむ。感情らしい感情が乗らなかった表情に明らかな困惑を浮かべて物珍しいものでも見る様な複雑な顔で銀時を凝視した。数回口をぱくつかせた後力なく吐息をして僅かに目を細める。銀時は小さく吐息すると、荒げた声を落ち着けて心底悲しそうに表情に影を落とした。 「…気味悪いわけないだろ、大丈夫だよ。ただ腕が優れているだけ。そうだろ…?」
「…ですが、私は所詮道具です、」
さらりと口にされた言葉に、思わず固まった。 捨てられることが当然であるような、傷つくことが当然であるような、自分の存在価値を下げた物言い。それはもう、あまりにも悲しげで。僅かに掠れた細い声が更に言葉を重くする。噫この子は一体どんな目にあっていたのだろう。こんなにぼろぼろにされてそれでも誰かの心配をして。機械的に丁寧な言葉遣いも、人形の様にどこかたりない表情も、なにがこの子をこんなにぐちゃぐちゃにしてしまったのか。自分のことを道具などと言わされて。 「道具は、使い捨てればいい。私は、傷つき、傷つける為に、生まれたのです」 「そんなはず、」 途切れ途切れに吐き出されるその言葉に、気が付けば声をあげて必死になっていた。会って数分のこんなにも脆い関係のまま、その言葉を否定したところで一体彼女の何が救われ、一体自分に何ができるのかなんてまったく解らなかったけれど。 「――ない。俺が、保証してやる」 それでも。
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