(ゼロ→←クラ)

「俺さま、天使さまのこと好きだ」

嘯いたのは真紅の髪を風にくゆらせたテセアラの神子である。
ミズホの夜はとても閑かで、物悲しくもあった。
見上げれば降り注ぐような星が眼を刺し、冷たい風が頬を滑る。
そうか、と返した声は何処か現実味の薄れた色をしていた。

「ちょっと、俺さま、本気よ〜?」

「……そうか」

濃紺の燕尾が風に揺れる。
オリジンの封印を解き放つために放射し減少したマナは、未だ身体に違和感を残していた。
然したる影響は感じられないが、何処か空虚さを覚える身体に眉を寄せたのはつい先程のことである。

「残酷だね、天使さまは」

溜め息のように落とされた言葉に、人のことは言えないだろうと胸中で溢す。
そっと吐いた溜め息は、風の音に紛れて消えた。

「信じなくても良い、知っててくれればそれで十分」

「……」

「それ以上は望まねえよ、そんな資格、俺にはねえから」

「……神子」

幸福などには成れはしまいと、自ら其を遠ざけて笑う。
哀しくはあった。
自らがミトスを止められてさえいればと、悠久の時を生きるなかで。
何度自分を、呪ったことかと。

そっと眼を伏せ、静かに微笑う。

「……この時代に、生まれて良かったな」

「は?」

「赤い髪は忌み嫌われ、奇異の目に晒される」

「……」

「そういう時代だったのだ、嘗ては」

血を浴びたかのようだと声を潜めるものは沢山居た。
だからこそ力を望んだ。
誰にも否定させないために。
居場所を、奪わせないために。
結局は、己の為だったけれど。
息子のように、誰かの為に強くなることは、叶わなかったけれど。

「……やっぱ天使さまのこと好きだわ、俺さま」

眼を閉じれば、視界は遮断され暗く染まる。
それでも頬に感じる風は、何処か優しく感じられて心が軋んだ。

「……、そうか」

──誰かを愛するには、私達は……傷付き過ぎてしまったのだ。



好きは愛と違って痛みを生まないから
(だからこそ、もう傷付かずに済むように)


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暗ぁ……;!
私の中でゼロクラはどう足掻いても悲恋になります。
途中に出てきたお馴染みのクラトスの過去設定。
捏造だけど赦してね←

ゼロクラが幸せになれる時は来るのでしょうか……(遠い目)

20110401
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