(ロイクラ)
「……なんで、」
ギリリ、自分のそれより白いクラトスの腕を、ロイドは強く握り締める。
骨が軋むほどの握力がかかったその手首に、クラトスは音もなく眉をぴくりと寄せた。
痛みとも、煩いとも取れぬ表情。
確かに血の繋がった親子である筈なのに、その心情を読み取ることも出来ないなんて。
ロイドは声に出さずに呟き、下唇を強く噛んだ。
無意識のうちに、クラトスの手首を掴む力が増す。
「なんで、あんたはそうなんだ」
「……」
「どうして、いつも、離れてくんだ……」
未だに見慣れない騎士であった頃の彼。
自分を見詰める色のない、しかし温度がない訳ではないワインレッドの瞳。
茶色に近い色をした自分のそれよりも断然綺麗に思えて、どれ程羨んだことか。
アールグレイの髪だって、自分とは似ても似つかない位にしなやかで、触れたくなるくらいで。
傍にクラトスが居てくれるだけでロイドは、充分だと思っているのに。
「なんで、傍に居てくれないんだよ……」
「……ロイド」
ふ、と自分を呼ぶ声に伏せていた顔をあげる。
その視線の先、ふるりと左右に振られた首が、まるで訊かないでくれと言っているようで。
思わず頭に血が上った。
「ふざけるな!」
冷静さを失った頭は、クラトスを背後にある壁に半ば叩き付けるように追い込む。
勿論、掴んだ手首は離さないまま。
「あんたはどれだけ俺達を傷付ければ気が済む?解ってんだろ、コレットだってジーニアスだって、皆あんたに帰ってきて欲しいんだってこと!」
「……」
「なのにフラッと姿見せたと思ったらまた消えたりして!今だってそうだ!」
違うんだ。
ホントはこんなこと、言うつもりなんて無いのに。
一度零れ出したら、止まらなくなってしまった。
クラトスが離れていく訳なんて、知っているんだ。
質問に答えない理由だって、全部解ってる。
俺や皆を、言い訳にしないためだって。
それなのに理不尽な言葉を撒き散らし、投げ付ける自分に、クラトスは只眼を閉じるだけで。
「傍に、居てくれよ……っ!」
「……ロイド、」
「……」
「──すまない、」
涙を眼に溜めながら顔を伏せたロイドの額に、そっとクラトスは唇を落とした。
子供をあやすように、微かに触れるだけのそれが、一層ロイドの心を傷付けると知らず。
罪悪と贖罪に濡れた瞳を静かに伏せて。
独りなるために孤独の妄執
(傷むことのないこの心を踏み潰すように、今、息を止めて、)
───────────────────
傷付けることしか知らない私を、どうか赦さないで。
クラトスは護ろうとして逆に傷付けてしまう人間だと思います。
誰かと生きることに不器用な。
20110121