(原作前,ユグクラ)


「ねえ、クラトス」

さらり、
ミトスの、……否、ユグドラシルの金糸のような細く美しい髪がその頬に落ちる。
払ってやろうかとも思ったけれど、そんな気力は生憎持ち合わせて居なかった。
すべてがどうでも良いとすら、思えてしまいそうな程。
それに、ユグドラシルは今それを必要としていない。
ならば、わざわざ払ってやる義理はないと眼を細めた。

「クラトス、聞いているのか」

「……はい」

僅かに苛立ちを孕ませた低い声に眼をもたげれば、ニヤリと薄い唇が弧を描く様を見た。
瞬間、跪きユグドラシルを見上げていた筈であった身体が衝撃と共に傾いだ。
蹴られ、横倒しにされた身体が痛みに軋む。
乱暴に顎を捉えられ見上げた先には、悦楽に歪んだユグドラシルの顔があった。

「ねえ、どうして裏切ったの」

「……」

「そんなに、家族ごっこは楽しかった?」

「……」

「僕を裏切るくらいに、さ」

返す言葉はない。
返そうとも思わない。
もう、どうでも良い。
罵られようとも構わない。
蹴られ、殴られ、嘲笑われても、只それを享受しよう。
たとえそれが人形の様だと後ろ指差されることに繋がろうとも。

「──でも、もう大丈夫だよね、」

「……」

「僕からクラトスを奪った奴等は、もう皆消したから」

「……」

「クラトスには、もう僕しか居ないんだから」

「……ユグドラシルさま」

笑いながら、囁きながら、愉しそうに眼を細めるユグドラシルに、すいと顔を寄せられ至近距離で見詰めあう。
怒りはない、悲しみはない。
家族を奪われたというのに、まるで大事な何かを亡くしてしまったかのように何も感じなかった。
欠損ではない、欠落でもない。
最初から、自分は持ち合わせて居なかったのだ。

「お前は僕の人形であれば良い、……これは、裏切った罰だよ」

眼を閉じる暇も与えぬように、乱暴に唇を重ねられる。
噛み付くような其れに、ちりちりと胸の奥が痛んだ。
後悔か罪悪か。
なんだって良い。
この胸が痛むことなど、もう二度と有りはしないのだから。

「離すものか、クラトス……」

瞳を閉じれば何時だって、優しく残酷な世界が広がっているのだから。


感情はない、我輩は猫だからだ
(誰に固執するでもない、餌を与えられれば誰にだって擦り寄って行く、)


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ユグドラシルに裏切りバレちゃったクラトス。
きっとユグドラシルはクラトスに歪んだ愛を抱いていそうな。


20110117
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