エドガーの髪留めがいつもと違っていた。蒼く綺麗な髪にほんのりと浮かび上がる普段の赤色のゴムの代わりに目に入ったのは、淡い桃色のそれであった。そんな些細な違いにも気が付く程に、わたしは彼を気にかけいたのかと思うと我ながら少し気味が悪い。エドガーは我等がナイツオブクイーンのキャプテンでありエースストライカーでもある。そんな彼はとても紳士であることでも有名で、女性という女性を片っ端から虜にしている。どちらかというとエドガーのような紳士的な人が苦手であるわたしが持っている男性の理想像は、言わずとも彼とはるかにかけ離れている。そんな彼のことを気になどかけていない、むしろ嫌いだとずっと思っていたけれど、こう、なんというか、興味がある、というのだろうか。そういう違いが目に付いたり、エドガーが女の子と会話していると不意に意識がそちらに傾いたりだとか。これではまるで、わたしがエドガーに 恋をしている みたいではないだろうか。


「そんなに気になるか?エドガーが」

「ぎゃっ!なんだフィリップかびっくりした…」


「…相変わらず品がない口調」「うっさい!」ぼうっとエドガーの後姿を見ていたわたしの隣へ、ニヤニヤと嫌な笑顔を浮かべたフィリップがやってきた。「今日も囲まれてるな〜、エドガー」ほんのりと何かをほのめかす笑顔がわたしに妙な違和感を感じさせた。わたしの心の内をすっかり見抜いているようで、腹立たしい気持ちの裏に少し恥ずかしさがあった。悔しいけれど、彼が気になるらしい。ちらりと視線をもう一度やると、勢い良く飛び込んできた試合の終わりに良く見る光景に思わず目を逸らした。女の子の黄色い声とエドガーのムカつく程綺麗な笑顔は、まるで彼が本当に人気であることをわたしに今一度知らしめるかのように鮮明であった。


「おーおーいいのかお前、エドガー囲まれてるぞ」

「ギャレス‥あんたほんとなんなの」


「誰もエドガーが好きなんて言ってない」「全く、素直になれって」鼻にかかる長い金色の髪の間から覗く細い目がギラリと光った。「あ、エドガーの右隣にいる子すっげー可愛い」フィリップと全く同じような厭らしい笑顔を浮かべたギャレス。実に腹立たしい。隣にいたいだなんて誰も言ってないし、思ってもいない。


「どうしました?」

「え」


柔らかい声に肩がびくんと跳ねる。肩が後ろへ振り返ると、向こうにいたはずのエドガーがあの笑顔で立っていた。おそらく、ギャレスとの会話に夢中で、彼がこちらへやって来ていたことに気が付かなかったのだろう。「いやあ、コイツがさ」隣にいるギャレスがその大きな手で私の頭をわしづかみ、にいっと厭らしく口を歪ませた。


「エドガーのゴムがいつもと違うって、やけに気にしてて、なあ?」


嫌な予感が胸を渦巻く前に、奴の口からいとも簡単に紡がれたいかがわしい言葉はわたしの心臓をも跳ねさせた。「‥あなたが、ですか?」エドガーも相当驚いているようであった。試合では見せない表情で口をぽかんと開けて、わたしとギャレスを交互に見ている。


「ああ、えっと、その、それは〜ですね‥」


肯定も否定も出来ず、目がすいすいと泳ぐばかり。代わりに答えるかのように顔がみるみる赤くなっていく。これじゃあ本当に好きみたいではないだろうか。あれ?なんて言って、わたしをからかうギャレスの言葉はもう耳に留められない。


「色を変えた理由、知りたいですか?」

「えっ、ああ、うん、うん‥」


エドガーはそう言って自身の顎に手を添えて、わたしの顔を覗き込む。周りがやいやいと騒ぎ立てたけれど、本来はそうなのだ。何故髪留めの色が違うか、ただ気になっただけなのだ。単なる好奇心なのだ。自分で再度確認するように、エドガーの言葉に頷いた。「それはですね」エドガーの頬が心なしか赤い気がした。遂にわたしの脳みそも春一色になってしまったのだろうか。


「私が想いを馳せる方がこちらを向いてくれるように、という、ちょっとしたおまじないです」





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心臓の火は熱いだろうに / england

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