たくさんの秘密と溜め息で染め上げた私たちにしか見えない糸が解けることも切れることもなく私たちを繋いでくれたのだと思うと不思議で私は小指をずっと見つめていた。
「小指がどうかしたのか?」
「ううん、ねぇ、琥太郎さんは運命の糸って信じてる?」
「そうだなあ」
ああ、また私は面倒な質問をしてしまった。
琥太郎さんはいつも寝る前に読む文庫本に栞を挟んでサイドテーブルに置くと私の手をとった。
「琥太郎さん」
「ん?」
やわやわと握られたかと思ったら掌を指でなぞられる。擽ったくて身を捩ると、逃げるなと脚を絡めとられる。
「擽ったい」
「相変わらず小さい手だな。」
「男女の差ですよ。」
くすくすと笑っていると琥太郎さんが口を開いた。
「運命の糸な...」
「え?」
「お前と繋がっていたと思うと信じてもいい気がしてくるよ。」
きれいなアメジストが細められる。
「切れなくてよかったと思える。」
大きな手が頬を撫でていくと、額に口付けられる。
「琥太郎さん、」
「なんだ?」
「私も、琥太郎さんと、繋がっててよかった」
もう、瞼が重たい。髪を撫でる行為がそれを促す。
ゆるゆると微睡んで沈んでいく。
「おやすみ」
夜の底
120804