極彩色で塗り潰す
私は最低なことをしていると、わかっている。彼への想いを忘れたくて、犬飼の想いを利用する。
犬飼のことは純粋に好き。けれど、それと同時に彼への想いも積もっていく。
「なんかスゴいもん描いてんな。」
「……いつからいたの?」
「ついさっき。美術課題か。」
「好きな色を好きなように使って好きなように描けって。」
「めちゃくちゃテキトーだな…。」
「そういう先生だから。」
いつの間にかいた犬飼に少しだけびっくりした。あんまり観てほしくない目の前のカンバスは、藍色や紺が花火のように散っていた。
犬飼には見られたくなかったけど、なんでもないフリをする。
「青が好きなのか?」
「普通。」
「完成?」
「まだだけど、…緑の絵具でもぶちまけてみる?」
「それって俺へのラブコールだろ?」
「それって自意識過剰。」
「そう言うなって。」
緑の絵具を出して、太筆をカンバスに2、3回叩きつけた。何だかそれは溶けだしたハート形のチョコレートにみえた。
「やっぱり愛だな。」
犬飼にもそうみえたらしい。少しだけ泣きたくなった。それを誤魔化すように金の絵の具を使って鏡文字で"LOVE"と書いて、犬飼にはにかんでみせた。
緑から藍にかかるようにそれを書いた私は酷く醜い。