約束なしでも会えるところ




たまに色濃く瞳に映る憂いだとか、たまにどこか遠くを見つめているような感じとかで、何となく気がついていた。

誰か別のやつをみている。と。
それでもいいと思うのは、俺の琥雪への執着か、それとももっと別のなにかか。ただ、傍にいられたらと願う自分は女々しいのか。

『いく』

保健室で眠っていた琥雪が呼んだ名前。何となくだったものが確実性をもった瞬間だった。





俺たち以外誰もいない放課後の教室。こんなとき世間のカップルは甘い雰囲気なんかをだしたりするんだろうが、生憎、重い沈黙が続いている。

「…私、犬飼を利用してるの。」

それを破ったのは琥雪だった。
俺を利用?

「物心ついたころから、傍にいて、気がついたら彼に恋してたの。片想いを10年以上。ちょっと疲れてツラい時に、犬飼が告白してくれた。彼を想い続けるのがツラくて、犬飼に逃げたの。だからって、犬飼が嫌いじゃない、寧ろ好きよ。…ただ、彼への想いも色濃くなってた。……ごめんなさい。」

彼、は寝言で言っていた名前なんだろう。震える声で、苦し気に話す琥雪を責めるなんてことはしてはいけない、できない。だって、俺も気付いていて傍に居続けたんだから。お互いに不器用だったんだ。


こんな、どちらも苦しむなら終わりにしよう。

俺の恋心は残したままで。




  
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