微睡む宇宙
最悪だ。
コホッ と弱々しい咳をだす自分が憎らしい。
「移りますから、帰ってください…」
「俺はそんなにヤワじゃないぞ。」
本当ならデートをしようと約束していたのに、私が運悪く風邪をひいてしまった。最悪。
温くなった冷却シートを剥がすと、一樹さんの掌が私の額に置かれた。
「冷たい…」
「気持ちいいだろ?」
一樹さんの掌は冷たくて、火照っている私にはちょうどいい。
手が冷たい人は心があたたかい、なんていうけれど、案外間違いじゃないのかもしれない。うん。だって、一樹さんは優しくて、あったかい。私がこうやって風邪をひくとその日の予定すっぽかして私を看病しにきてくれる。でも、流石に仕事をすっぽかすのはどうかと思う。
「青空君に、密告してやるんですから、コホッ」
「止めてくれ。それに颯斗もそんな野暮じゃねぇよ。それから、」
額に置かれていた武骨な手は私の鼻をつまんだ。いやだ。絶対変な顔になってる!
「一樹さん、やめてください!」
「2人のときに他の男の名前をだすな。」
妬くだろ。 と、そんなことを言われるとなんだかこっちが恥ずかしい。ドキドキしてむずむずする。幸せすぎて、どうにかなっちゃいそうだ。
風邪の熱と幸せの熱がいっしょになって頭がクラクラする。
「一樹さん…」
「どうかしたか?」
「一樹さんのせいで、病状が悪化しました。だから、」
責任とって。 そんな言葉は彼の口に呼吸と一緒に食べられた。
熱と唇◎110722