牡丹の唇
方や臓器売人に方や情報屋。Libraはとんでもない双子を引き入れたと常々思う。
「Alphard!」
屋敷に帰ってきた彼女は俺を見上げて、うんざりしたような顔をする。やめてくれ傷つくから。
「...何ですか?」
「いや、ただの出迎えだ。」
「幹部様もお暇なのね。」
「まあ、そう言うなって。」
白魚の手が近づいて、俺の目もとを撫でる。ああ、そういえば、まともに睡眠をとったのはいつだったか。
書類整理と外部調査に加えて、さっきまでもちょっとしたドンパチ騒ぎ。最近どうもきな臭い連中が居るしで寝る暇もない。
「そうそう、近いうちに三人ほど処刑しなくちゃいけないんですよ。Ariesは出てくださいよ。」
「おいおい勘弁してくれ。」
「そう仰るなら下っ端のすぐお金で靡く性質、どうにかできません?」
「どうしようもねえだろ、あれは。Libraには伝えてあるのか?」
「もちろん。SagittariusとScorpioを借りますね。」
白魚の手は目尻から輪郭をなぞって、顎から首筋、それから心臓の位置まで降りた。表情は気持ち口角が上がっているくらいで、アメジストの瞳は鈍く光っていた。
Alphardは一歩離れてから、もう少しばかり口角をあげて、俺を見る。
「処刑は明日の午前九時。処理はAlkaidに。」
「アイツ帰ってきたのか。」
「ええ、三日前に。書類は後ほど部屋に持っていきます。それと少し、お休みになった方がよろしいかと。」
「嗚呼、すまないが、頼んだ。」
自室に向かおうと足を進めたところで、Alphardが口を開いた。
「ああ、それと。お忘れ物ですよ。」
投げられたシルクのハンカチに包まれた、小さくて固い何か。開くと血がこびり付いた俺のカフスだった。
「袖、犬に噛み付かれたわけじゃ、ないんでしょう?」
ハッとして、右袖に目をやるとカフスが無かった。あの時のドンパチ騒ぎでちぎられたかしたらしい。でも何で、あの時、その場にこいつは居なかったはずだ。
なぜ?
「そのハンカチは捨てておいてください。それでは、おやすみなさい。」
カツン、彼女のアルマーニのパンプスが俺を嘲笑うように音をたてた。
131003