芥子の睫毛
表向きはとある富豪の娘。深窓の令嬢というやつで、愛と富を惜しみなく与えられた。羨まれる容姿に手をとりキスをする男たち。メッセージカードと共に届くプレゼントたち。
全部。
「退屈...」
兄を連れて出かけようかと思った矢先に仕事用のパソコンからけたたましい音が鳴った。不味い。
「嘘でしょ」
ハックだ。退屈なんて吹っ飛んで、急いで電話をCapricornに繋ぐ。受話器を肩に挟んだまま、目と指は忙しなく動かす。
「Alphard?どうしたの?」
「どうしたじゃないわよ。今どこ?」
「今?今なら角のパン屋。」
「鼠が入ったわ。今駆除中よ。」
「嘘でしょ!?」
「ホントよ。もう!こいつしつこいわね!Capricornの創ったのを掻い潜ってきたのよ!完璧なんじゃなかったの!?なんとかして!」
「今やってる!」
それからはもう互いに愚痴りながら二人で応戦していた。Capricornはパン屋の焼きたてのブルーベリーのパンを待っていたそうで、ご立腹だった。なんとか退治して二人揃って息を吐いた。
「あーあ、もうパン無くなっちゃってるよ。タイミング最悪。」
「あら、でも時間的にコルネが焼けるんじゃない?」
「そうだけどさ。うーん...今日はコルネで我慢するよ。じゃあね」
ブツリと切れた電話をソファーへ放り投げる。変に疲れたから気晴らしがしたい。
とりあえず、Libraには伝えておこう。
部屋の扉がノックされ給仕が受話器を持ってきた。どうやらお誘いの電話らしい。
「やあ、レディ。ご機嫌は如何かな?」
「丁度退屈になったの。」
「それは良かった。オペラのチケットが手に入ってね。よかったらどうかね?」
「あら、奥様と一緒に行くんじゃなくて?」
「まさか。六時に迎に行こう。それじゃあね。」
「ええ。」
受話器越しにキスをされて背中が粟立った。
「お嬢様。あまり無茶をなさいませんように。もしもがあったとき琥太郎様がなんと仰るか。」
「あら、その兄のための仕事よ。」
全ては兄の野望のために。
レディ・ジョーカー130928