夢の死骸


「琥雪は卒業したらどうするの?」

母が久しぶりに帰国したからと食事に誘われたときに、母はなんでもないようにこのフレーズを唱えた。私はなんて答えたんだっけ?
私はどうするんだろう。
なりたいものもない。でも、なにか夢があるわけじゃない。
私の夢ってなんだったっけ?
母との会話の翌日、保健室に居た兄に私の小さい頃の夢はなんだったかを聞くという、少し変なことをしてみた。

「お星様の博士って言ってたぞ。あとセーラームーン。」

物が散乱する保健室のソファでお茶をすすりながら、兄は教えてくれた。

「珍しく、悩み事か。」
「お母様に進路聞かれて、ちょっと困ったから。」

クラスメイトは大学進学や、留学、就職。もしくは全く異なった専門学校に行く。私も多分、そうするんだと思う。

「将来を思うなら大学進学は必須だろうな。学歴社会だ。」
「うん。そうなんだけど、」

お星様の博士。
確かに夢だった。星を覚えると大好きな兄が喜んでくれたから、私はそう言ったんだと思う。

「わかんない。」

兄さんは心配そうな顔をした。
セーラームーンにだって、バイオリニストにだって、鳥にだって、あの時はなれるんだって信じていた。憧れはなんだって夢にして、なれるんだって信じていたんだ。
でも、春を知るごとにあんなにたくさんあったはずの夢は消えていって、今の私ができた。今年も咲き誇る桜を見るたびに思う。あの樹の下にはきっと私が捨てた私達が埋まっている。私に殺された夢見る私達の死骸が埋まっている。きっと兄さんの死骸だって埋まってる。郁の死骸も埋まっている。隣の彼の死骸だって、お姫様の彼女の死骸だって、埋まっている。

「わかんないよ。」

次の春、私が埋まるんだろう。


の死骸

140726


  
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