どこか遠くの誰かが泣いた
僕だけがそこにいるのに、嗚咽が聞こえたような気がした。聞き覚えのある嗚咽に思わず振り返った。
「琥雪…?」
白んだ吐息に紛れて出たのはどこまでと白い少女の名前。
僕もついに末期かもしれない。
最近は忙しくてろくに声を聞いていないし、会ってすらいない。ああ、イライラする。琥雪は気を使っているのか滅多に連絡を寄越さない。僕はそれを理解しているから咎めないけど、こうも連絡が無いと逆に不安になる。僕から連絡すればいい?それもなんだかかっこわるい。くだらないプライドなのは重々承知のことだから変に突っ込まなくていいよ。
ああ、と溜め息がでた。
本当に末期だ。
携帯電話が震える。長さ的にメールだ。どうせメルマガか何かだろう。
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day:2012/**/**
from:琥雪
sub:無題
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好き
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固まった。道のど真ん中で。肩に誰かがぶつかって慌てて歩く。
「好き」
たったそれだけ。
それだけなのに頬がゆるむ。
帰路を急ぐ。駅を出て、柄にもなく速足になる。アパートの階段なんか走っていた。鍵を開けて靴を脱ぎながら琥雪に電話をかける。電話に出た琥雪が少し鼻声で泣いていたのが分かった。
寂しかった?
バカ
ひどいなぁ。
いつ会える?
来週には終わるよ。
本当?
うん。
わかった。
ねぇ、
耳元で愛を120310